2010年、厚生労働省の発表によると、メンタルヘルスの不調による社会的な損失額は、1年で2.7兆円にものぼると推計されました。この発表は社会に大きな衝撃を与えました。働く人の心の健康を守ることは、いまや企業の重要な義務となっています。心身の健康については働く人自身によるセルフケアももちろん大切ですが、それだけでは十分といえません。従業員がストレスなく働ける環境こそが、健全な企業運営をするための原動力となります。従業員が安心して働ける職場としていくための、オフィス改善について解説します。
目次
オフィスにおけるメンタルヘルスケアの重要性
働く人は企業の大切な「資源」です。従業員の心身の健康が失われると、企業活動にも大きな影響がおよびます。ここでは、オフィスにおけるメンタルヘルスについての取り組みを見ていきましょう。
個人ケアの限界
ダイバーシティや働き方改革など、職場の考え方もひと昔前とはかなり変わってきています。最近では、人材を企業の経営資源と位置づけ、その能力を適切に引き出していくヒューマンリソースマネジメントを重要視する動きも見られるようになりました。
一方で、現代は働く人にとって大きなストレスのかかる社会です。少子高齢化による労働力の慢性的な不足、複雑化する人間関係など、職場には個人の力だけでは取りのぞくことができないストレス要因が数多く存在します。
国は、事業者によるメンタルヘルスケア対策が必要であることを示し、一定以上の規模の企業についてはストレスチェックを義務づけています。企業には、従業員のプライバシー保護に配慮しながら、組織的・計画的にメンタルケアへの施策を実施していくことが求められる時代になったのです。
人事管理・労務管理双方が連携し、企業内において個々の従業員のおかれている状況を把握するとともに、必要に応じて個人生活に関する悩み相談も受けられる体制を強化する必要があるでしょう。オフィスをすべての従業員が健全に働いていける場所とするためには、短絡的に考えず、中長期的視点をもって対応していかなければなりません。
評価から改善に向けた取り組みへ
2018年に厚生労働省が行った「労働安全衛生調査」によると、「現在の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスになっていると感じる事柄がある」労働者の割合は58.0%、「メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業所」の割合は59.2%となっています。
メンタルヘルスケアへの取り組みについては大企業ほどその割合が高く、事業規模が小さいほど遅れが目立つ傾向にあります。事業規模に関わらず、意識を高めていくためのさらなる施策が求められるところです。
また、ストレスチェックを実施しても、その後の改善にうまくつなげられていなければ意味はありません。メンタルについての評価の後には、ストレス要因の排除をどう行っていくのかが大きな課題となります。ストレスチェックの実施によって自社内の従業員の状況を把握し、そのうえでストレス要因の洗い出しを行い、改善方法を考案します。具体的な計画の推進に向けては、セルフケアとそのサポートとなる研修会や相談窓口の整備、管理者に対する教育の随時実施などの行動が必要です。同時に、産業保健スタッフの配置や、外部の専門家の協力を仰ぐなどの取り組みも検討してくことが大切です。
オフィス改善に向けた「職場環境」の考え方
職場環境とは、従業員を取り巻く環境全般を指します。会社の施設設備や業務体制のみならず、上司や同僚との人間関係も職場環境に含まれます。ここでは、オフィスを改善していくための職場環境について見ていきましょう。
作業環境職場環境の改善
作業環境職場環境の改善のひとつとして、各従業員の参加意識の向上、情報共有の徹底が挙げられます。日々の情報共有の手段や作業分担、裁量範囲の見直しなどを行い、一人ひとりが達成感を抱きながら積極的に参加できる作業環境職場環境づくりを進めます。作業環境職場環境を改善することで、疎外感や孤独感からくるストレスを軽減させるのです。
また、無理なく就業できるよう勤務時間や作業編成の調整を行い、作業手順を整理して円滑化を推進するほか、習熟度にあわせた業務配分を考えることも大切です。
同時に、空調・照明・音・衛生・休養時間・安全への配慮など、物理的な作業環境職場環境の見直しも行います。
さらに、不満や不安をためないためには、相談しやすい職場であることが求められます。どの職域の従業員に対しても支援が行き届くよう、企業内での制度やしくみづくりを進めていくことが大切です。
居住空間としての快適性・人間関係の円滑化
オフィスデザインのよしあしは、そこで働く人の精神に大きな影響をおよぼします。職場レイアウトを一新するにあたり、社員アンケートを実施する、社内でアイデアを募るなどもオフィス改善手段のひとつです。リラックス空間の創出やコミュニケーションスペースの拡張、社食・カフェテリアの充実といった視点から、オフィスを変えていくことで大きな効果が期待できます。また、オフィスに植物(グリーン)を設置することも効果的です。オフィス内の植物によってストレス緩和効果が得られるという研究結果もあり、注目が高まっています。
そのほかオフィス環境改善に向けた事例としては、1on1ミーティングの実施、管理者も参加する昼食会や社内同好会の結成、全員参加のオフィス整頓日などが挙げられます。長時間のデスクワークが基本の職場で、ラジオ体操やヨガ、ピラティスなどで体を動かす取り組み例もあります。これらは人間関係の円滑化を図りながら連帯感を高めるといった取り組み例も見られます。目的で行われており、今後も取り組みが広がっていくでしょう。
オフィス改善を実現するためのポイント
オフィス改善といっても、どこから手をつければよいのかわからないという声も聞かれます。そこで参考にできるのが、厚生労働省から公表されている「職場改善のためのヒント集」です。これらを活用しながら、オフィス改善を実現していくためのポイントを確認します。
「ヒント集」の活用
「職場改善のためのヒント集(メンタルヘルスアクションチェックリスト)」は、職場環境のストレス要因評価をした後、具体的な改善行動計画を立案する際に参考となるツールです。
オフィス改善に向けた取り組みに関して系統立てて確認ができ、優先度の高いものをあぶり出していくのに役立ちます。活用にあたっては表面的に捉えるのではなく、各チェック項目について内容を十分に理解しながら進めていく必要があります。
ヒント集はオフィスのよしあしを判定するものではなく、内在する課題を明らかにし、改善を進めるためのものです。単なる点検に終わらせず、できることから着手していく姿勢で取り組まなければ改善にはつながりません。
自社に合わせた改善とするために
チェック項目の優先度や必要性は、社員の層や属性によっても変わります。企業に個性があるように、一律の「よいオフィス環境」というものはありません。
こうした取り組みのなかでもたれる話し合いは、個人が不満を述べる場となって紛糾しがちです。一人ひとりが、「では、どうすればストレスのない職場にできるのか?」という視点をもった発言をしなければ、課題解決は望めません。オフィス環境の改善は現状のあら探しではないことを、よく心得ておく必要があるでしょう。
一般社員たちの意見に耳を傾けられる風通しのよい社内風土であること、一過性で終わらせず改善を継続する意識を持ち続けることが、従業員の心を守る、働きやすいオフィスを実現していきます。
オフィス環境の改善が会社の力を底上げする
働き方の多様性が認められつつある現代ですが、オフィスに集合して業務するというスタイルが主流であることには変わりありません。長時間働く場所が、殺伐とした雰囲気であれば業務効率が低下するのも当然です。オフィス環境を改善することで、個人の仕事に対するモチベーションも上げられます。一人ひとりが快適に働くことができればコミュニケーションが改善され、さらに働きやすさが向上するというよいサイクルがもたらされることでしょう。
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