介護のリスクマネジメントとは?
事故防止の実践と研修資料の探し方

2026年1⽉23⽇

介護現場では、利用者の方々に安全で快適な生活を送っていただくことが最優先です。しかし、高齢者の身体機能の特性や多様なケアの必要性から、転倒、誤嚥、誤薬といったさまざまな事故のリスクが常に存在します。これらのリスクを組織的に管理し、事故を防ぎ、万が一発生した際にも適切に対応する取り組みが「介護のリスクマネジメント」です。

この記事では、介護におけるリスクマネジメントの目的や、現場で起こりがちな事故事例とその原因分析、具体的な事故防止策のほか、研修資料の探し方について解説します。

リスクマネジメントの目的

介護におけるリスクマネジメントの目的は、事故やトラブルを未然に防ぐことと、万が一発生してしまった場合の被害や影響を最小限に抑えることです。

リスクマネジメントは、個々の職員の注意深さだけに頼るのではなく、組織全体でシステムとして取り組むことが重要になります。利用者の安全確保を徹底すれば介護サービスも向上し、職員の精神的な保護を含めた職場環境の改善にもつながっていきます。

介護現場でのリスクの特徴

介護現場には、他の業種とは異なる特有のリスクが存在します。これらの特徴を理解することが、効果的なリスクマネジメントの第一歩となります。介護現場でのリスクにはどのような特徴があるのか、具体的に見ていきましょう。

高齢者の身体的・精神的特性によるリスク

介護を利用する高齢者には、身体や精神的特性によるリスクを抱えているという特徴があります。例えば、加齢に伴う筋力低下や、バランス感覚、視力・聴力など身体機能の低下、認知機能の低下です。そのため、転倒・転落、誤嚥、誤薬といった事故が起こりやすい状態にあります。また、利用者の中には複数の疾患を抱えている方も多く、一つの小さな事故が重篤な結果につながりやすいことも特徴です。

事故が及ぼす影響が広範囲

介護現場では、事故が起こるとその影響が広範囲に及びます。介護事故は、利用者本人に身体的・精神的苦痛を与えるだけでなく、そのご家族にも大きな不安を与えてしまいます。

さらに、事故に関わった職員の精神的負担(トラウマ)や、他の利用者・職員への動揺、施設の評判低下なども考えられるでしょう。そのため、利用者と職員の双方を守る包括的な管理が必要です。

「ヒヤリハット」への対策が重要

「ヒヤリハット」と呼ばれる、「ヒヤリとした」「ハッとした」経験が日常的に発生する点も、介護現場でのリスクの特徴です。ヒヤリハットとは、重大な事故には至らなかったものの、一歩間違えれば事故につながっていた可能性がある出来事を指します。労働災害の分析から導かれた「ハインリッヒの法則」によれば、「1件の重大な事故の背後には、29件の軽微な事故と、300件のヒヤリハット(傷害のない事故)が隠れている」とされています。

なお、高齢者は加齢に伴う身体機能や認知機能の低下によって事故が重篤な結果につながりやすいため、それらの特性を予見・予測した上でリスクマネジメントを行ってください。ヒヤリハットが重大な事故を未然に防ぐための重要な情報源であるという認識を職員全体で共有し、報告を促す文化を醸成しましょう。

継続的な「仕組み化」が必要

介護現場でのリスクに対しては、継続的な「仕組み化」が必要だという点にも注意しましょう。個人への注意喚起だけでは対応に限界があるため、介護現場での事故を確実に防ぐには、組織としての「仕組み化」を継続することが不可欠です。

チェックリストの活用

ケアにおけるチェックリストを活用し、リスクに対応する点も特徴の一つといえるでしょう。介護現場の多くでは服薬、移乗、入浴など、手順が決まっているケアの前後にはチェックリストを用い、確認漏れを防ぎます。例えば誤薬防止のためには、薬剤の準備者と投与者の2名体制で二重に確認することも求められます。

介護事故の具体的事例

リスクマネジメントを実践する上で、過去の事故事例から学ぶことは多くあります。介護事故の具体的事例から要因の共通項を分析していきましょう。

事例1:浴室での入浴介助中、利用者が洗い場で足を滑らせて転倒し、大腿骨を骨折した

浴室での入浴介助中、利用者が洗い場で足を滑らせて転倒し、大腿骨を骨折した事例では、3つの要因が考えられます。一つは浴室の床が濡れていて滑りやすかったという「環境要因」、もう一つは利用者の筋力低下によりふらつきやすかったという「身体的要因」が挙げられます。さらに、介助者が一人で複数の利用者を同時に見ていたという「人的要因」も複合的に関わっていました。

事例2:夜間、ベッドからトイレへ移動しようとした際に転落し、頭部を打撲した

夜間、利用者がベッドからトイレへ移動しようとした際に転落し、頭部を打撲した事例では、まずベッドの柵が適切に使用されていなかったという「機器・人的要因」が考えられます。加えて、利用者の離床を検知するセンサーが設置されていなかったという「環境要因」も挙げられます。

事例3:他の利用者の薬を誤って内服させてしまった

介助者が他の利用者の薬を誤って内服させてしまった事例もあります。直接的な要因は、服薬準備時と投与時におけるダブルチェックを怠ったという「人的要因」です。また、似た名前の利用者が同じフロアにいたという「環境要因」も、ヒューマンエラーを誘発する背景として存在しました。

事例4:他人の所有物を破損させてしまった

利用者の入れ歯や補聴器など、個人の所有物を破損させてしまった事例では、物品の管理方法に関する施設内のルールが明確でなかったという「組織的要因」が根本的な要因です。また、個々の職員の注意不足である「人的要因」も考えられます。

事故原因の分析手法

事故が発生した場合、あるいはヒヤリハットが報告された場合、その原因を深く掘り下げて分析し、再発防止策につなげることが重要です。事故原因の分析手法を具体的に見ていきましょう。

インシデントレポート(ヒヤリハット・事故報告書)

事故原因の分析手法としてまず挙げられるのは、インシデントレポートです。インシデントレポートとは、事故やヒヤリハットが発生した際に、「いつ、どこで、誰が、何を、どのように」といった事実関係を客観的に記録する書類のことを指します。インシデントレポートは特定の職員を非難するためではなく、原因を分析するための貴重なデータとして活用します。

4M4E分析

4M4E分析とは、事故の原因を多角的に分析するフレームワークの一つです。

4Mは、Man(人)、Machine(機械・機器)、Media(環境)、Management(管理・体制)という人的・物的要因を分析対象としています。事故の主な原因はどこにあったかを共有する際に利用されます。

4Eが示すEは、Education(教育)、Engineering(工学・設計)、Enforcement(規則・強制)、Example(模範・事例)といった安全管理やリスク対策の分野で用いられるアプローチの頭文字です。4Mで明らかになった要因や原因に対して、4Eの各項目に沿って対策を立案し、具体的な事故対策を立てていきます。

これらのフレームワークを活用することで「なぜ起きたのか」「どう対策すべきか」が分析でき、教育不足やマニュアルの不備といった根本的な原因にたどり着きやすくなります。

KYT(危険予知訓練)

KYTとは、入浴介助や移乗介助といった介護の具体的な場面のイラストや写真を見ながら、「どのような危険が潜んでいるか」をグループで話し合い、対策を立てる訓練です。これにより、職員の危険感受性を高めることができます。

介護施設での事故防止策

事故を未然に防ぐためには、「環境」と「人(教育)」の両面からのアプローチが不可欠です。ここでは介護施設での事故防止策の例を見ていきます。

環境設備を改善させる

物理的な環境を整えることは、介護現場における事故防止の基本です。物理的にどのような設備を改善すべきか見ていきましょう。

■ 物理的な改善の対象と改善内容

職員の業務内容を改善する

環境整備と並行して、職員のスキルアップと業務プロセスの見直しも重要です。改善したい業務内容の例は、下表のとおりです。

■ 業務内容における改善の対象と改善内容

事故防止を目指した研修実施の流れ

リスクマネジメントを組織に根付かせるには、継続的な研修が不可欠です。ここでは研修を実施する際の流れを見ていきましょう。

1. 研修資料を入手する

公益団体や各自治体の福祉保健局などは、介護事業所向けの研修資料や事故防止マニュアルを無料で公開している場合があります。また、介護専門の研修を行う企業も、サンプル資料や有料のeラーニング教材を提供していますので、積極的に活用していきましょう。

なお、インターネット上で入手した資料を利用する際は、著作権や二次配布(施設内でのコピー・配布)が可能かどうかといった点は必ず確認してください。

2. 研修資料を活用する

研修資料は事前に配布して予習を促したり、研修後に復習用としてアクセスできるようにしたりすると、知識の定着率が高まります。
研修で学んだ内容を、そのまま「事故防止マニュアル」や「業務チェックリスト」として日常業務に組み込むことも有効でしょう。

なお、介護保険制度の改正や新しい知見に基づき、資料やマニュアルは定期的に見直す必要があります。例えば、コニカミノルタジャパンのオンラインマニュアル作成・運用サービス「COCOMITE(ココミテ)」であれば、スマートフォンやタブレットからいつでも最新の手順を確認でき、動画マニュアルも簡単に組み込めるため、職員のスキル平準化とミスの削減に貢献します。

3. 介護リスクマネジメント研修を実践する

研修は「実施すること」が目的ではなく、「実践できること」が目的です。
単なる知識の詰め込みではなく、自施設で実際に起きたヒヤリハット事例の分析、KYT(危険予知訓練)、家族への事故説明といったロールプレイングなど、実務に直結した内容を目指しましょう。

リスクマネジメント研修は、新規採用職員向けの基礎研修や、中堅職員向けの事例分析研修、リーダー向けの指導法研修など、対象者のレベルに応じた体系的な研修計画を立てられると、より理想的です。
なお、全職員が一堂に集まることが難しい場合は、コニカミノルタジャパンのオールインワンミーティングボード「MAXHUB(マックスハブ)」を活用し、拠点間や自宅からでもリモートで集合研修に参加できる環境を整えることも、効率的な教育体制の構築につながります。

初動対応と報告のポイント

どれだけ万全の対策を講じても、事故の発生をゼロにすることは困難です。万が一事故が発生してしまった場合に、被害を最小限に食い止め、信頼を損なわないためには「初動対応」と「報告」が重要になります。

初動対応のポイント

事故は、発生直後の数分間の対応が、その後の結果を大きく左右します。初動対応のポイントとしては下表のような行動が挙げられます。

■ 必要な初動対応と対応内容

報告のポイント

初動対応後のプロセスも、リスクマネジメントの重要な一部です。報告のポイントとしては下表のような行動が挙げられます。

■ 必要な報告と報告のポイント

人とICTの力を組み合わせ、確実なリスクマネジメントを実現しよう

介護リスクマネジメントは、利用者の安全を守り、質の高いサービスを提供し続けるための、介護事業所における経営の基盤そのものです。

近年では、人の目による見守りとICTの力を組み合わせることで、事故防止の精度を一段と引き上げることが可能になっています。映像やセンサーを活用したリスクの事前検知や、オンラインマニュアル、リモート研修ツールなどを効果的に取り入れ、より安全で質の高いケアの実現を目指しましょう。

なお、コニカミノルタジャパンは、介護現場のリスクマネジメントを支援するソリューションを多く提供しています。介護業界の課題と改善のヒントが詰まった資料もご用意していますので、ぜひご覧ください。

介護施設の業務改善ガイド
現場の声から⾒える課題とデジタル活⽤のヒント集

人材不足や業務負担の軽減、ICT・DX活用による効率化、スタッフ教育や補助金活用まで、トータルで支援する具体策をご紹介

記事監修

コニカミノルタ 金子史歩

藤野 雅⼀(富津市天⽻地区地域包括⽀援センター センター⻑)
保有資格:社会福祉⼠、介護⽀援専⾨員

淑徳大学社会福祉学部卒業後、障害者支援施設に通算17年間、高齢者関連事業所に通算11年勤務。2017年より千葉県の高齢化率40%を超える過疎地の地域包括支援センターでセンター長を務める。2024年4月から2025年3月まで、月刊『ケアマネジャー』(中央法規出版)にて「障害福祉サービスから介護保険サービスへの移行」等をテーマに連載記事を手がける。

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