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No.269 No.2-2006
地方に来て感じたこと

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地方に来て感じたこと

Konica Minolta Medical Network No.269 No.2-2006

笹井 啓資

笹井 啓資
新潟大学医歯学総合病院 教授

京都、奈良で約20年間、東京に3年間勤務した後、2002年11月に、縁合って郷里の新潟に帰ってきました。郷里を離れている間に、新潟は大きく変わっていました。新潟県ばかりでなく、どの地方都市にも共通する現象とのことですが、中心街の往時の賑わいは見る影もありません。特に私の育った県西部の中心である小さな市の商店街は休日の午後でも開いている商店は少なく、人の通りもほとんどない状態です。高校時代のなじみの書店も運動具店もデパートも、もうありません。バスの路線も減り、また便数も少なくなっています。住民の皆さんは自家用車を使って郊外の大型ショッピングセンターで買い物をされているようです。一家には家族の人数分の自家用車が当たり前です。中心街より郊外に広い駐車場のある住宅が増えています。郷里に帰るまでは知識としては知っていましたが、まったく別世界の話のように思っていました。しかし、最近、事情があって両親の家に行く機会が増え、このことを強く実感しています。80万都市の新潟市は、私の郷里ほどではありませんが、それでも中心部はむしろ不便になってきています。大学病院にも中心街にも近い宿舎住まいをしておりますが、車を所有していないので郊外のショッピングセンターへ行くことができず、日常品の買い物にも不自由を感じています。このようなことは当地に来るまでは思いもしなかったことです。

大学の教室を担当している関係で、教室OBと話をする機会が多くあります。赴任直後に、教室OBから「なかなか放射線科専門医更新に必要な単位を取りに行く機会がないので何とかできないか」との話を聞きました。私にはどのような意味なのか理解できませんでした。日本医学放射線学会学術総会、秋期大会は遠隔地で開催されるので、毎年の参加は困難かもしれませんが、地方会であれば簡単に行けるのではないかと思った次第です。関西でも、東京でも、土曜日の朝、ふっと思い立っての地方会参加は何の問題もありません。長くても1時間も電車に乗れば学会に参加できます。比較的簡単に知識を増やす機会が多く、同時に専門医更新のための単位取得も容易です。

私にとって初めての日本医学放射線学会北日本地方会は、山形大学主催で開催されました。山形は新潟から最も近い県です。地図を見るとすぐ近くです。簡単に行けると思ったのですが、実際は自家用車か、本数の少ない列車をいくつか乗り継ぐか、1日に2本しかない遠距離バス(高速バスではありません)を用いるしかありません。夕方に着くためには朝に大学を離れなくてはならないことが分かりました。学会はよく準備されて充実しており、初めての山形市は文物も珍しく、私にとっては楽しい出張でした。しかし、少ない人数で勤務している教室OBにとって地方会参加が非常に難しいことが理解できました。

一方、東京は距離的には遙かに遠いのですが、新幹線を用いると新潟県内のほとんどの病院から日帰りで出張可能です。新潟に転任直後は前任大学で外来を週1回続けさせていただきましたが、朝6時台の新幹線に乗ると9時からの外来が可能でした。新潟に来るために2時間かかる私の郷里からでも、ほとんど同じ時間で、しかも新潟に来るよりはるかに便利に東京にアクセスできるのです。新潟県内からは地方会への参加は不便ですが、東京での総会や研究会には参加しやすいのです。この春の横浜での学会に日帰りで2日間通ったという人までいます。このことは新潟に来るまでは全く知りませんでした。新潟に住んで、東京や関西で地図を見ていただけでは分からない地方の事情を実感しています。学会でもこの点を少し考慮した方がよいのではないかと思います。

新潟に帰ってから、学会ばかりでなく多くの事柄が地方の事情を理解しない人たちによって決められているのではないかと思うようになりました。最近、道州制の線引き案が提案されています。地図では隣でも、経済的交流がほとんどないような県同士が組み合わされているようで、新潟県が入る案のほとんどは交通事情をまったく無視しているように見えます。現在、地方の論理は悪であるような風潮があるように思いますが、地方に来て、自分自身が地方の事情を知らずに学会内で発言してきたことを反省しています。少なくとも自分が関与できる範囲では、地方の事情を反映することを考えていきたいと思っている今日この頃です。

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