近年、企業と従業員の関係性が重要視されるなか、ワークエンゲージメントという言葉が注目されるようになっています。従業員のやる気をどう引き出していくかは、現代企業が抱える大きな課題であり、成長への重要な要素です。活力のない人材ばかりでは、例え必要な従業員数が満たされていても、事業推進の力が失われます。ワークエンゲージメントは、そうした従業員の状態を表す指標となるものです。
ここではワークエンゲージメントの基本的な知識と重要性、向上させるためのポイントについて解説します。
はじめにワークエンゲージメントの定義と、混同されがちな用語との違いを解説します。
ワークエンゲージメントは、“仕事に関連するポジティブで充実した心理状態”と定義されています。
具体的には「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)、「仕事に誇りとやりがいを感じている」(熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)の3つが揃った状態です。ワークエンゲージメントは労働に対する一時的な気持ちではなく、持続的な感情であると捉えられます。
ワークエンゲージメントの概念は、2002年にオランダのウィルマー・B・シャウフェリ教授らによって提唱されました。
ワークエンゲージメントが仕事に対する個人的な心理状態を表すのに対し、労働意欲を生み出す土台となる企業への信頼やビジョンへの共感など、企業との関係性や心理状態を表します。個人と組織が一体となり、双方の成長に貢献し合う関係性であると定義されます。
一般的には、行動を起こすための動機にあたるものです。ビジネスにおいては仕事を続ける、業務に向き合うための要因となります。モチベーションが行動を起こす時点での「意欲的な思考」を意味するのに対して、ワークエンゲージメントは、自発的に貢献意欲を持つ「状態」を指します。
福利厚生やマネジメント、職場環境、人間関係、働きがいなどについて社員の満足度を表す指標です。ESが高いとき、従業員は企業に対して居心地の良さを感じます。ワークエンゲージメントは、労働に対して意欲的である状態です。ESと比較すると、より業績に強く関連しているとされます。
従業員エンゲージメント、ESに関する参考情報として、以下の記事でも詳しく解説しています。
ワークエンゲージメントが注目される背景と、対策によって得られる効果を解説します。
ワークエンゲージメントが注目される理由には、日本社会が置かれている労働人口の減少や人材の流動化が背景にあります。必要とする人材の確保が難しくなっているなかで、企業側では従業員の定着を図る必要があります。一方で働く側では、過去の時代と比べると転職や職種を変えることについての抵抗感が薄れています。仕事に対してポジティブな状態にあれば、業務にやりがいを持ち続けられ、離職を意識せずに働くことができます。逆に仕事への意欲が低下すると、ほかへと目移りしやすくなります。
企業が従業員との継続的な関係を維持するためにも、個人的な仕事への熱意ややりがいが求められます。仕事を通じた企業への貢献感が高められることで、企業自体の求心力も増していき、組織力の強化につながります。
ワークエンゲージメントが向上することにより、以下のような効果が期待されます。
離職や従業員のあり方の問題については以下の記事で詳しく解説しています。
ワークエンゲージメントを向上させるために確認すべきポイントは、以下のように挙げられます。企業として取り組むべきワークエンゲージメント向上の対策を解説します。
ワークエンゲージメントを高めるために見直すべきポイントとして、以下の2つの「資源」に着目する必要があります。
個人が持つ内的要因を指し、ストレス軽減や、モチベーションアップに関連します。良好な状態へと導くためには、自己効力感の向上が重要です。
自己効力感とは、達成することが信じられる、貢献できるという気持ちであり、ポジティブ、楽観性、自尊心などと関連します。自己効力感を養うためには、成功体験の積み重ね、適切なフィードバック、周囲からのフォロー・サポートがポイントとなります。
また、ストレス反応(バーンアウト)を低減させるスキルと、動機づけを高めるスキルの2つを向上させていく必要があります。
仕事の資源とは、本人以外の環境(組織内)によってもたらされる有形・無形の要因です。仕事量のコントロール、上司・同僚からの支援などが、モチベーション維持やパフォーマンスの促進、ストレス軽減につながります。具体的には仕事の成果を認める、成長を促すコーチング、適度な裁量の付与、キャリア開発の機会提供などがポイントとなります。
次に、具体的な取り組みを解説します。
仕事を「やらされている」ものではなく「やりがいのあるもの」として主体的に捉えるための手法です。従業員の意識を変容していくことで、認知や行動に自律性が加えられ、仕事に対して肯定的な見方ができるようになります。具体的にはスケジュール管理、人間関係、仕事の意義への再考といった内容に関して研修や勉強会を開催するなどの方法があります。
ジョブ・クラフティングを通じて意欲、満足感を持つことで、プレッシャーやストレスを軽減し、ワークエンゲージメント向上に寄与します。
時間配分、業務の進め方に役立つタイムマネジメントのトレーニングを受けることにより、与えられた業務を無理なくこなせるようになります。自己効力感や自信を養い、仕事の達成感を得るのに役立ちます。
対立を起こさずに自分の考えや意見を率直に表現する、また、相手の意見を的確に捉えるためのトレーニング、傾聴や相槌などのテクニック修得を通じて、コミュニケーションスキルを高めていきます。他者との関わり方を学び、周囲との信頼関係構築に役立てます。
良好なコミュニケーションを実現するための具体的な手法について、IDEA SHOWROOMで解説しています。
不満、疲労感、徒労感などにより仕事に対する意欲や関心を喪失することを回避するために、ストレスチェックや産業医による面談といったメンタルヘルス対策を実施。心理的負担を減らし、メンタルケアを行うことで身体全体の健康対策にもなります。
上司と部下の1対1での対話の機会を定期的に設けます。業務の現状の確認、業務以外での相談、心理的なものを含めた状況報告により、ワークエンゲージメント低下につながる障害を早期に発見し、改善に役立てます。1on1で得られたニーズをもとに、仕事量の調整や負担の軽減、仕事に対する希望への対応を行えるようになります。
相手の話に耳を傾け、観察しながら適切に質問を投げかけることで、相手の内面にある答えを引き出す目標達成の手法です。部下に気付きを与え、行動へと促すことで「仕事の資源」を満たします。
適切な仕事量の実現に向けて、企業全体での業務効率化の促進を図ります。不要な業務、作業、打ち合せの削減、ITツールの導入による情報共有や自動化など、現在の課題を洗い出し、可能なところから着手していく姿勢が求められます。
フレックス勤務や時短勤務、テレワークなど、柔軟な働き方ができる制度の導入によりワークライフバランスの実現を目指すことで、働くことへの充実感が高められます。疲弊、倦怠感を軽減させ、業務への集中力が増す効果を期待できます。
多様な働き方に関連する女性の離職率については、以下の記事で詳しく解説しています。
業務効率化については以下の記事で詳しく解説しています。
ワークエンゲージメントは、個々の社員の仕事への意欲、やりがいの有無を示します。企業の最重要リソースである人材を十分に活用していくためには、それぞれが持つ力をパフォーマンスとして発揮してもらわなければなりません。企業ができるのは、組織として社員を尊重し、心身両面でサポートする体制を整備することです。ワークエンゲージメントが高まれば、離職率を低下し、社員の自発的な業務遂行により企業全体の業績への好影響も期待できます。自社の未来への発展を目指し、ワークエンゲージメント向上への対策に着手していきましょう。
いいじかん設計 編集部
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