公開日2024.07.04
リアル展示会再開のdrupa2024が示す印刷の未来
印刷業界における世界最大規模の展示会であるdrupa2024が、2024年5月28日~6月7日の11日間、ドイツのメッセ・デュッセルドルフ見本市会場で開催された。新型コロナ禍で前回がオンライン開催となったため、リアルでは8年ぶりである。
本レポートでは、デジタル印刷推進団体PODi代表理事である荒井氏にdrupa2024について解説いただきます。
drupa2024概要
市場環境の変化により、印刷産業の展示会が軒並み縮小・廃止の動きのなか、盟主であるdrupaの開催はいかに?と危惧もされたが、出展社数1,643社(前回比約90%)と、まずまずの規模感は確保された。
一方、訪問人員数は約17万人(前回の約26万人の2/3程度)と数字の上ではかなり縮小傾向が顕著で、前回(drupa2016)が前々回比2割減で結構なニュースになったのだが、今回はかなり衝撃的な数字である。
各メーカーからの新製品発表やブース・イベントへの取り組みなど、相変わらず「別格感」の漂う展示会であったことに変わりはないが、華美なショウや装飾・イベントは多くは見られず、drupaといえども大きな転換点を曲がってしまった印象があった。
過去には、各回のサマリーとして「デジタル-drupa」「CTP-drupa」「インクジェット-drupa」など、出展のトレンドを表すキャッチフレーズが付けられ、印刷技術の発展を示す表題となっていたが、前回(2016)あたりから特化された表現は薄れ、良い意味では「多様化」、ネガティブな言い方では「停滞」を示すことになってきたのでないかと思う。
今回も「パッケージ」「環境対応」といった題目が事前に事務局のメッセ・デュッセルドルフからも投げかけられ、
●touchpoint packaging (パッケージ印刷)
●touchpoint textile (テキスタイル印刷)
●touchpoint sustainability (サステナビリティ)
という特設コーナーが設けられた。ただし、内容的には各メーカーの持ち寄りによる展示であり、格別の新規性を持ったものではなかったが、今後のdrupaの方向性を示すものと捉えられるだろう。
デジタル印刷機の今後の動向:インクジェット技術の進化
以前、今後のデジタル印刷技術はトナーによる電子写真方式かインクジェット方式か、という議論がされていた時期があったが、一般商業印刷における「オフセット」と「軽オフ」の区分が、デジタル技術においては「インクジェット」と「トナー」に引き継がれたことが明確となったと言えるだろう。
インクジェット枚葉機は百花繚乱の状態で、コニカミノルタ、富士フイルム、キヤノン、リコー、小森、Landa(*ナノインク技術であるがインク印刷機として分類)、ハイデルベルグなど、いままでインクジェットと言えばグラフィック向けワイドフォーマット機と高速バリアブル・フォーム印刷機が二大用途であったが、A3ノビより大サイズの一般商印用途が第三の柱として明確にポジショニングされるようになってきた。
このことはとりもなおさず、オフセット印刷機から将来的に変わってゆくことを予見させる。現状では生産性とランニングコストが未だ大きな壁になっている(特に後者を明示している展示はほとんどなかった)が、テクノロジーの進化という観点からは流れは完全にできてきたのだろう。
2008年が「インクジェット-drupa」であったと言われているが、「リアル・インクジェット-drupa」は実は今回だったのではないだろうか。
インクジェット輪転機も同様である。大きく分類すれば、フォーム・出版系、軟包装系、ラベル系となるのだが、明らかに今後の主力の印刷方式となってゆくだろう。印刷産業の象徴であったオフセット輪転機が会場で見られなくなってすでに久しい。
パッケージ印刷・ラベル印刷と加飾加工
もう一方で目立ったのは、パッケージ・ラベル印刷関連展示の大幅な増加である。
一般商業印刷市場が縮小傾向になっている現在、印刷会社側・メーカー側とも業容拡大の方向は一致しているのだろう。オフセット印刷機のラベル転用、インクジェット輪転機、トナーロール機、フレキソ機+インクジェットの複合機(これは昨年のLabelexpoでも多数出展された)など、ラベル印刷機の出展は新規参入も含めて数多く見られた。
パッケージ印刷に関しては、軟包装への拡大が進むとの見込みの一方で予想ほど多くは見られず、サステナビリティの観点から少しトーンダウンしているのかもしれない。また、世界的な物流需要の高まりからか、段ボールへの直接印刷のようなソリューション(EFI,東芝など)も今後関心を寄せられる領域かもしれない。
デジタル加飾も今回のトピックと言って良いだろう。
もともと少量多品種の製品が大半であるので、デジタル印刷には相性が良く、デジタル加飾機としてはMGIやScodixあたりが先鞭をつけたが、加飾加工の大手KURZをはじめ、Bobst、ABGなども展示PRをしていた。
さらに何と言っても中国系企業の参入が多く見られたのは注目の点であろう。構造的には複雑なものでは無いので、今後一気に競争が激しくなることも予想される。
富士の7色トナー、HPの液体トナー12色など、疑似加飾加工の領域ではコスト面や用途など異なる価値訴求をしてゆくものと思われる。
省人化・無人化への取り組み
ブースの各所で見られたのが、AGV(自動運搬ロボット)とロボットアームである。前回のdrupa2016でも散見されたが、さらに加速した感がある。
プリプレス工程がDTPとワークフロー、さらにはWEB受注とも連動し効率化が図られてきたことに続き、プレス工程もより少量、より多量、双方の効率的な生産対応に進化してきた一方、遅れがちであったポストプレス工程の改革(実は最も人的工数がかかり生産性が低い領域であり、DX化の推進には避けて通れない)がより注目を集めた。
トナー系デジタル印刷では、エンジンメーカーが後加工機まで垂直統合的に製品開発し、結果的に旧来の軽印刷市場を席捲するようなポジションを獲得したが、多様な生産物と条件が前提となる一般印刷領域では、ポストプレスが独立した専門メーカー依存となっていた。
2022年のIGASでは後加工のホリゾンを中核に大手プリンターメーカーが取り囲んでソリューションを提案した姿があったが、オフライン環境をさらにフレキシブルに繋ぐのが「ロボット化の推進」ということになる。この認識は印刷機メーカーに顕著で、ハイデルベルグを始めとして展示の集客スポットともなっていた。
また今回も最大規模の展示ブースを抱えたHPにおいては、「すべてをアプリケーション別の生産工程全体として見せる」をコンセプトに、AGVが走り回る展示となった。これは以前のメディア対応の多様性を前面に行っていたPRからの方向転換が感じられる。逆に他社のデジタル印刷機の品質性能向上によって、差別化領域を変えてきたとも言えるだろう。
その他の分野
その他の領域で目立ったのは、「サステナビリティ」と「中国系企業」であろうか。
drupa2024のサブテーマでもある「サステナビリティ」。流石に欧州、というような展示が控えているのかもと予想したが、大上段に構えたものではなく、特にエネルギー効率と廃棄物に焦点を当てた地味だが着実なものが浸透しつつあるのだと感じた。お題目でなく、現実的実効性ということで定着しつつあるのだろう。
また、今回は多数の中国系企業が出展し、国別ではNo.1となった。ただし、技術より「商売優先」が大半であった印象がある。
デジタル系メーカーが集合するホール8においてはデジタル系商品を持つ中国企業が、後加工系メーカーが集まるホール6では後加工製品を持つ中国企業が、それぞれ日米欧企業を取巻く。さらにホール13を中心としたEastエリアには小規模の中国系メーカーが集まり、この辺は「China-drupaでないか?」と称した方もいるほどだ。事務局側としては、出展社数9割に貢献し、安堵感もあったのではないだろうか。
コニカミノルタの展示
コニカミノルタのブースは、前記のトレンドに合致した製品群を展示していたが、そのメインステージを飾ったのが、次世代B2インクジェット印刷機のAccurioJet 60000である。既存のAccurioJet KM-1eの倍速(片面 6,000枚/時)であり、オフセット印刷機に迫る生産性を誇る。軒並みインクジェット印刷機が発表されているなかで、UVインクと過去10年に及ぶAccurioJet KM-1eの設置実績に基づくノウハウは武器になると思われる。
また、デジタルラベル印刷機のAccurioLabel 400も他メーカーの多くがインクジェットベースの中で、乾式トナーの特性・優位性はもっとPRしても良いだろう。
ブースで目を引いたのは、MGI社と共同出展のAlphaJETである。前回のdrupaではプロトタイプが展示されていたが、加飾後加工の統合生産システムとして異彩を放っていた。またロボットシステムFORXAIの自律的オペレーションには評価の声もあった。
一つ提言があるとすれば、MGIの市場融和性とコニカミノルタの開発技術を、さらに融合して新たな市場マーケティングに繋がる動きに昇華できないか、という点であろうか。まだ、それぞれが独立してシナジー効果が十分に出せていないように見える。例えばコンパクト性、Easy to Useと言った特徴は、ユニークでパイオニア的なコニカミノルタの誇るべきDNAであろう。今後ブラッシュアップして貰いたいと思う。
drupaの今後
2028(以降)のdrupaはどうなるであろうか?
参加者の大幅減少により、メッセ事務局が大胆な戦略変更を提起されるのは現実であろう。
FESPA、Labelexpoなどの包装・ラベルといった産業系印刷の展示会がdrupaほどの大幅縮小を見せていない(一部は増加傾向もある)ことは、今回「package・ textile・label」などの非一般商印の取り込みの大きなトリガーとなっているのは確かである。ただし、それらの展示会も欧米(減少傾向)とそれ以外の地域(増加傾向)では様相が異なる。
それを意識して地域別開催(すなわち市場オリエンテッド)にしているのではないかと思われるが、drupaは印刷技術展示の最高峰でもあるゆえ地域別市場別といったコンセプトを貫きづらいジレンマがある。
一方、「技術」にウエイトがあるがゆえに、「メーカー同士の協業、提携」の絶好の場であるのは確かである。今回もいくつかの業界地図に変動を与える可能性のあるニュースが発表された。印刷業界ほど裾野が広く多様なプレイヤーが存在する業界は余りない。巨大企業が垂直統合で市場を席捲する構図とは無縁である。新たなシナジーが製品の進歩・発展をもたらす。それをサポートするプラットフォームとしてのdrupaの意味合いは健在であろう。
開催の直前に、「drupa」と「PRINTING United」の提携が発表された。市場性の拡大の観点からは十分な効果があるか疑問符はつくものの、2028へ向け、その他の戦略も含めてどのような企みと試みが出てくるか、注目したいものだ。
一般社団法人PODi 荒井 純一Profile:1959年東京生まれ。コニカミノルタ株式会社にて長くデジタル印刷事業を担当。立ち上げより20年余、商品企画から国内外の市場展開まで広く活動を行い基幹事業への成長に導く。2023年より一般社団法人PODi顧問。 Profile:1959年東京生まれ。コニカミノルタ株式会社にて長くデジタル印刷事業を担当。立ち上げより20年余、商品企画から国内外の市場展開まで広く活動を行い基幹事業への成長に導く。2023年より一般社団法人PODi顧問。 |
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