睡眠
Column 01

赤ちゃんの安全な睡眠

「乳幼児突然死症候群(SIDS: Sudden Infant Death Syndrome)」をご存知ですか?
SIDSは、睡眠中に赤ちゃんが突然死亡してしまう病気です。
SIDSの予防方法はまだ確立していませんが、これから紹介する3つのポイント1)を守ることによって発症する割合が低くなるという報告があります。 リスクとなるものをできる限り減らしましょう。

– たばこをやめましょう。
たばこはSIDS発症の大きな危険因子として知られています。

– 1歳になるまでは、あおむけに寝かせましょう。
医学上の理由でうつぶせ寝をすすめられている場合以外は、うつ伏せ寝はやめておきましょう。

– できるだけ母乳で育てましょう。
母乳で育てられている赤ちゃんの方がSIDSの割合が低いということが研究から明らかになっています。

安全のためにできること

睡眠中に赤ちゃんが亡くなる原因には、SIDSの他に、窒息などによる事故があります。ここでは、赤ちゃんの安全な睡眠を守るための方法をご紹介します(米国小児科学会の安全な睡眠に関する推奨事項のリスト2)を一部抜粋翻訳)

環境
– 赤ちゃん用の寝具(しっかりした、沈みすぎないもの)を使用しましょう。
– 窒息などの原因となる重いものや赤ちゃんの首に巻きついてしまう可能性のあるものは、赤ちゃんが寝る場所から離しておきましょう(生後1年以降の健康な赤ちゃんには、ほとんど危険をもたらさないとされています)。

おくるみ
– 赤ちゃんにおくるみを使うこと自体は問題ありません。ただ、おくるみを使う際は、仰向けに寝かせてください。おくるみがきつすぎないようにし、赤ちゃんが呼吸したり、腰を動かしたりするのを邪魔しないように気をつけましょう。

添い寝
– 以下の場合は、添い寝を控えてください。
・眠気をもたらす可能性のある薬を内服した時
・赤ちゃんが生後4ヶ月未満の時
・赤ちゃんが早産または低体重の場合

国によって意見が分かれる添い寝 ~結局どうすればいいの?

アメリカ、カナダ、ドイツなどは赤ちゃんとベッドを共有(添い寝)しないように推奨していますが、イギリスやオーストラリアなどでは、添い寝は母乳育児の際は、意図しなくとも生じることだとしています。
そのうえで、添い寝がリスクとなりうる特定の状況については、医療者と率直に話をするように助言しています3)
日本には、もともと添い寝の文化がありますが、世界でも赤ちゃんの睡眠中の死亡が少ない国として知られています。日本では、厚生労働省が添い寝には否定的な立場はとらず、添い寝をする際は十分に注意をするように案内をしています1)

とはいえ、「添い寝」が直接SIDSに影響しているか否かはまだ結論が出ておらず、米国小児科学会も「添い寝が単独でSIDSのリスクをどれほど上げているのか明言できない」としています2)
添い寝をすることで、大人の寝具が赤ちゃんにかぶさって息ができなかったり、赤ちゃんが暖められすぎたりといった他の要因が関連している可能性もあります。
一方で、添い寝は赤ちゃんとの絆を深め、夜間の母乳育児を促すということがわかっています。
そのため、日本の病院では添い乳をすすめていることが多いのが現状です。
実際、添い乳を経験すれば、そのメリットを感じられることもあるでしょう。
このように、「添い寝」と「ベビーベッド」のどちらが正解かということはありませんが、このような情報を踏まえて、どちらにするかを選ぶことが大切です。
添い寝をする場合は、赤ちゃんの睡眠中の事故が起こりやすい6ヶ月くらいまでは特に注意してください。

「正しい情報」って一体なんだろう?

添い寝の項目で紹介したように、同じテーマでも国によって意見が異なることは珍しくありません。
国に限らず、身近なところでは、TV番組ごと、さらにはコメンテーターごとに言っていることが違うということはよくあるのではないでしょうか。
このような時に、それぞれの立場や価値観の違いだけではなく、根拠にしている情報(研究・報告)自体が違うことがあります。
驚かれるかもしれませんが、母子保健の分野でも、研究で明らかになっていることはほんのわずかなのです。特にこの分野は、倫理的な観点から介入研究(お薬を飲んでもらったり、何かをするようにお願いをする研究)が難しいといわれています。
世の中には、出産や育児に関する情報がたくさんありますが、それらの情報源や背景、全体のメリット・デメリットを考える習慣が大切です。ご自身が納得したうえで選択しましょう。

参考文献 1. 厚生労働省. 乳幼児突然死症候群(SIDS)について.https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/sids.html
2. NHS Helping your baby to sleepSIDS and Other Sleep-Related Infant Deaths: Updated 2016 Recommendations for a Safe Infant Sleeping Environment, TASK FORCE ON SUDDEN INFANT DEATH SYNDROME, Pediatrics Nov 2016, 138 (5) e20162938; DOI: 10.1542/peds.2016-2938
3. Blair, P. S., Ball, H. L., McKenna, J. J., Feldman-Winter, L., Marinelli, K. A., Bartick, M. C., & Academy of Breastfeeding Medicine (2020). Bedsharing and Breastfeeding: The Academy of Breastfeeding Medicine Protocol #6, Revision 2019. Breastfeeding medicine : the official journal of the Academy of Breastfeeding Medicine, 15(1), 5–16.https://doi.org/10.1089/bfm.2019.29144.psb