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ハイパースペクトルイメージングによる食品の品質・成分分析

食品の「品質」と「安全性」への関心の高まり

消費者は、食品の品質や成分が栄養や健康に与える影響を強く意識するようになっています。
アレルギーや食物不耐症の増加、さらに食品生産における倫理的な課題も社会的な関心を集めている一方で、食品メーカーには品質と安全性を確保する法的責任があります。
製造工程でのトラブルは大きな経済的損失だけでなく、消費者の安全を脅かすリスクにもつながります。

ラボ分析からリアルタイム検査へ

食品製造の品質管理には、さまざまな分析技術が用いられています。しかし多くの場合、「分析に時間がかかる」、「人手が必要」、「サンプルが破壊される」といった課題があり、結果が出るまでに数日から数週間を要することも少なくありません。
食品製造では迅速なフィードバックが不可欠なため、生産ライン上でリアルタイムに品質を評価できる、高速かつ高度な非破壊検査技術が求められています。

分光分析とハイパースペクトルイメージングの違い

分光分析

分光分析は、非破壊かつ高速に食品の成分や物性(例:水分量、タンパク質量、粒径など)を測定できる、食品業界で広く使われている手法です。
食品中の多くの化学結合は、SWIR(短波長赤外:900~2500nm)領域で特定の波長を吸収し、その情報から成分を解析できます。
ただし、分光分析は「一点測定」が基本のため、均一な試料(小麦粉など)には適している一方、複数成分が混在する複雑な食品の解析には不向きという弱点があります。

ハイパースペクトルイメージング

ハイパースペクトルイメージングは、分光分析と画像処理を融合した技術で、サンプルをピクセル単位で解析でき、リアルタイムかつ非接触・非破壊で測定が可能です。
RGBカメラや従来の分光センサーと比べて、水分や脂肪などの成分分布の「見える化」、複数成分が混在する食品の解析、数百の狭帯域波長情報の取得など、圧倒的に多くの情報を得られる点が特長です。
しかし目的に応じて「どの波長が必要か」を理解し、適切に活用することが重要になります。

食品業界におけるハイパースペクトル分析の先駆者:Campden BRI

Campden BRIは、1919年に英国で設立された食品・飲料分野の研究機関です。現在では80か国以上・2,400社を超える会員を有する世界最大級の組織で、会員には、Kellogg’s、Coca-Cola、Nestléなどのグローバル企業も含まれます。
Campden BRIは15年以上前からハイパースペクトルイメージングに注目し、食品分析への応用を進めてきました。

リアルタイム検査を可能にするプッシュブルーム方式

生産ラインでのインライン検査では、短時間でサンプルを撮像することが求められます。強い照明によるサンプルの乾燥や溶融を防ぐためにも、短時間測定が不可欠です。
Campden BRIは、「900~2500nmで動作」、「数秒で測定可能」、「様々な製品サイズに対応」、「持ち運びが容易」といった条件を満たす、Specim製のSWIRプッシュブルーム型ハイパースペクトルカメラを採用し、2008年から使用しています。

プッシュブルーム方式は、スペクトルを高分解能かつ高速で取得し、生産ライン上のサンプルをリアルタイムでスキャンできます。ミリ秒単位で撮像できるため、実験室の分析手法をそのまま生産ラインに活用できる点も大きなメリットの1つです。
Campden BRIは約20年にわたり、パン、ビスケット、穀物、肉、魚、菓子、揚げ物など幅広い食品のハイパースペクトル分析を提供してきました。クライアントごとに専用のモデルを作成し、ラボでの分析はもちろん必要に応じて現場での測定も実施し、製品開発支援に加え、分析手法のインライン適用性を評価する予備試験も行っています。

食品の水分分布分析

水分分布の可視化

ハイパースペクトルイメージングの代表的な用途は、食品中の水分分布の測定です。
水分分布は食品の食感や微生物増殖のしやすさ、鮮度に直結する重要な要素ですが、目視では均一かどうか判断が難しい場合があります。
例えば焼成製品では、製造条件が最終製品の水分にどのように影響するかを評価するために活用できます。

パンにおける水分分布の例

図1は、Campden BRIによる白パンの水分分布の測定例です。校正モデルを構築し、それを実際のサンプルに適用しています。

青~紫:水分量が少ない領域
黄~赤:水分量が多い領域

パンの中心部に向かって水分量が増加し、外側のパンの耳の部分は水分が少ないことが視覚的にわかります。

複合食品における水分移動の検出

単一素材の食品に比べ、複数の成分からなる食品では水分移動の解析が難しい傾向があります。
ハイパースペクトルイメージングは、こうした複合食品の水分移動を把握するのにも有効で、製品の保存期間中に起こる水分変化を非破壊で可視化できます。

例:低水分の生地+高水分のフィリングを持つ製品
  →水分移動による品質劣化を事前に把握

食品成分の定性・定量分析

ハイパースペクトルイメージングは、サンプルをピクセル単位で解析できるため、複数成分が混在する食品の成分分布をの可視化に最適です。特に短波長赤外(SWIR:900~2500nm)領域では、食品中の主要成分がそれぞれ固有の吸光特性を示します。
例えば、脂肪、水分、結晶性スクロース(砂糖)などは以下のような特徴的な吸光帯を持っており、これらの分光情報を利用することで、成分の存在や分布を識別することが可能です。

●脂肪: CH₂ 結合に由来する吸光帯
●水分:水分子中の OH 結合による吸光帯
●結晶性スクロース(砂糖):特定波長に明確な吸光ピーク

参照サンプルを用いてキャリブレーションモデルを構築することで、ハイパースペクトル画像から得られる分光データを定量値へ変換でき、脂肪含有量や水分量などを数値として評価することができます。
同一種類の製品を継続的に分析する用途(例:混合肉製品中の脂肪含有量測定)では、こうした定量モデルが特に有効です。
キャリブレーションモデルの構築には、用途に応じてさまざまな解析アルゴリズムが用いられます。代表的なものとしては、PLS(部分最小二乗法)、SVM(サポートベクターマシン)、ニューラルネットワークなどがあり、参照測定値とハイパースペクトルデータを比較することで、目的とする成分濃度を高精度に推定します。
一方で、すべての用途で完全な定量キャリブレーションが必要なわけではありません。
短期的な比較評価や参照サンプルがない場合でも、特定波長の画像を用いた定性的な比較分析は可能です。

チョコレートバーの成分比較例

図2は市販されている複数のチョコレートバーをハイパースペクトルイメージングを用いて比較分析を行った例です。
ここでは完全な定量キャリブレーションは行わず、特定の吸収帯に基づく成分比較をしています。
図では、3つの吸光帯のマップを示しており、脂肪(CH₂結合に由来)の多い部分は赤、結晶性スクロースは緑、水分(OH結合に由来)は 青で表示され、複数の成分が混ざり合っている部分は、複数の色で示されています。

それぞれの色は、成分の存在量や分布の違いを直感的に示しており、画像からは、ナッツ部分が高脂肪であるため赤く表示され、キャラメル部分は青色または紫色で示されており、高い水分量と脂肪含有量のばらつきを示しています。

チョコレート部分は緑色、黄色、オレンジなどで表示されており、脂肪と結晶性スクロースの組み合わせが一定でないことを示しています。この図は、市販されている異なる製品間で、各成分の構成がどのように異なるかを示しています。

このように、完全な定量キャリブレーションを行わなくても、ハイパースペクトルイメージングは製品間の成分構成の違いを比較・評価する手法として有効です。
さらに、これらの特性について定量キャリブレーションを構築すれば、生産ライン上でのインライン検査への応用も可能になります。

ハイパースペクトル技術の未来への可能性

ハイパースペクトルイメージングは、近年急速に普及しており、多くの食品メーカーがオンラインで生産での活用を検討し始めています。
技術の成熟と共に導入のしやすさも向上しており、Campden BRIのような専門機関は、「技術の有効性の紹介」、「実用化に向けた試験」、「インライン検査への適用評価」を通じて、食品メーカーの導入をサポートしています。

製品情報

ハイパースペクトルカメラ
Specim FXシリーズ

Specim FXシリーズは、可視光から長波赤外(約400〜12,300 nm)までの広範な波長領域を用途に応じたモデル構成でカバーするラインセンサ型ハイパースペクトルカメラです。高い分光・空間分解能に加え、マシンビジョン向けインタフェースに対応しており、高速かつ安定したデータ取得が可能です。
研究開発からインライン検査まで幅広く活用されており、成分分析、品質評価、異物検査、素材の選別など多様な課題に対して新たなソリューションをご提供します。

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