アプリケーション
ハイパースペクトルカメラによる綿花の水分測定
水分検査を進化させる非接触 / リアルタイムの分布解析技術
水分の定量化は、多くの産業や研究分野において極めて重要な課題です。分光法を用いた定量推定は、水分含有量のモニタリングにおいて効率的かつ非破壊でありながら高精度を実現できる手法です。
なかでも、ハイパースペクトルカメラはスポットタイプの分光計では取得できない水分の空間的分布を可視化できる点で優れています。
本研究では、コットンパッドにおける水分含有量の変化と乾燥過程を対象にハイパースペクトルイメージングによるモニタリングを行いました。
近赤外線スペクトル域における吸水ピーク
食品、製紙、木材などの産業分野では、生産工程における水分のモニタリングが不可欠です。水分含有量は製品の品質や加工効率に大きく影響を与えるため、正確かつ継続的な測定が求められます。
近赤外線(NIR)分光法は、非破壊かつ高精度で水分量を測定できる手法として広く用いられており、特に970nm、1150nm、1450nm付近には水分の吸収ピークが顕著に現れます。
Specim FX17 ハイパースペクトルカメラは、900~1700nmの波長範囲をカバーし、これらの水分吸収ピークを正確に捉えることが可能です。また、空間情報を含むハイパースペクトル画像を活用することで、水分の分布状態を可視化できます。
実験概要
実験条件
・直径約5cmの円形コットンパッド(市販のメイク落とし用)を水に浸漬
・Specimラボスキャナー40×20に設置し、乾燥完了まで4分おきに撮影
・合計67回(264分間)にわたり、Specim FX17で測定を実施
・データ解析にはSpecimINSIGHT ソフトウェアを使用
スペクトル分析と乾燥過程の可視化
取得した各画像は、暗色および白色基準で正規化を行った後、全67枚の画像を1つのファイルに統合し、モザイク画像を作成しました。このモザイクは乾燥過程の時間経過に伴うコットンパッドの状態変化を視覚的に表現しています。
モデリング:PLS回帰による定量化
コットンパッドの乾燥状態を定量的に評価するために「部分最小二乗回帰(PLS回帰)」という多変量解析手法を用いてモデルを構築し、乾燥の進行度を表すために「drying」という変数を定義し、測定の経過時間に応じて0〜264の値(単位:分)を割り当てました。
データ処理の流れは以下の通りです。
・取得した全67枚のスペクトル画像のうち「2枚おきに学習用」として使用、残りを「検証用」に割り当てを実施
・SpecimINSIGHTソフトウェアを使用して背景領域を除外し、コットンパッド部分のみのデータに絞って解析を実施
・モデルに基づいて、各画像のスペクトル情報から乾燥度を予測し、ヒートマップとして可視化(図2A)
・実測値と予測値の比較から、PLSモデルの性能を検証(図2B)
結果は構築したPLSモデルは決定係数(R²)=0.98という非常に高い予測精度を示しました。
この結果から、ハイパースペクトルデータを活用することで、コットンパッド上の水分状態を高精度に定量化できることが確認されました。
ただし、乾燥の初期段階では予測精度がやや低下する傾向が見られ、これは吸収ピーク(970nm、1150nm、1420nm)の変化が乾燥の初期では比較的小さく、スペクトルの違いが捉えにくいためと考えられます。
モデル比較とトレーニングデータの重要性
さらに、モデルの予測性能を改善するため、測定頻度を増やした別のモデルも構築し、この第2モデルでは2分おきに測定した61枚の画像を使用し、同様にPLS回帰を行いました。モデル構築や検証方法は先ほどと同様で、SpecimINSIGHTを用いて背景除去とスペクトル解析を実施しました。
結果はこの第2モデルでも、決定係数(R²)=0.97という高い精度を達成しました。
特に乾燥の初期段階(湿潤状態)の予測精度は、最初のモデル(4分間隔)よりも向上し(図2C)、これは、時間分解能が高くなったことで、微細な水分変化がスペクトルに反映されやすくなり、モデルがより適切に学習できたためと考えられます。
この比較から明らかになったのは、モデルの性能は使用するトレーニングデータの質と内容に大きく依存するという点で具体的には以下になります。
・対象とする水分レベル(湿潤〜乾燥)に偏りがないようにデータを選ぶこと
・測定タイミングやサンプルの状態に応じて最適なデータを用いること
これらがより精度の高いモデル構築に不可欠であることが示されました。
測定結果と活用メリット
今回の実験では、Specim FX17 ハイパースペクトルカメラを用いて、コットンパッドの乾燥過程における水分量の変化をモニタリングし、その定量化を試みました。
FX17は、水分吸収に特徴的な波長(970nm、1150nm、1450nm付近)をカバーしており、水分変化に伴うスペクトルの違いを正確に捉えることができました。
PLS回帰モデルを構築した結果、決定係数(R²)0.98および0.97という高い予測精度が得られ、乾燥状態のヒートマップによる可視化も有効であることが確認されました。また、測定間隔やサンプル状態に応じてモデル性能が異なることから、適切なトレーニングデータの選定が重要であることも明らかになりました。
SpecimINSIGHTによる解析とモデル構築、およびSpecimCUBEによるモデルのリアルタイム運用により、非破壊・高精度な水分管理が現場で実現可能です。紙・繊維・食品など、他分野への応用も期待されます。
製品情報
ハイパースペクトルカメラ
Specim FXシリーズ
Specim FXシリーズは、可視光から長波赤外(約400〜12,300 nm)までの広範な波長領域を用途に応じたモデル構成でカバーするラインセンサ型ハイパースペクトルカメラです。高い分光・空間分解能に加え、マシンビジョン向けインタフェースに対応しており、高速かつ安定したデータ取得が可能です。
研究開発からインライン検査まで幅広く活用されており、成分分析、品質評価、異物検査、素材の選別など多様な課題に対して新たなソリューションをご提供します。



























