アプリケーション
ハイパースペクトルカメラによる金属および布上の油の検出
素材と油種の違いを捉える付着油のスペクトル識別技術
油は多くの産業において潤滑剤として使用されていますが、最終製品においては汚染物質と見なされることが多くあります。油の検出は人の目では困難であり、従来のRGBカメラでは不可能です。ここで、ハイパースペクトルカメラが有効な解決策となります。
実験概要
この有効性を検証するため、3種類のオイルをアルミニウム板および黒色の布に塗布し(図1参照)、Specim社製の3機種のハイパースペクトルカメラ(FX17、SWIR、FX50)でスキャンを行いました。
使用したオイル
自転車のチェーンなどに広く使用される潤滑油:Weldlite TF2
高温用潤滑油:Würth HSP 1400
汎用性の高い合成油:Pentisol
図1では、金属板および布地にオイルを塗布した箇所を、緑(Weldlite)、赤(Würth)、青(Pentisol)で示しています。
検出結果
1. Specim FX17(900–1700 nm)
Specim FX17は900~1700 nmの波長帯をカバーし、天然および合成化合物に基づく化学物質の検出に適しています。
スペクトル分析(図3・4参照)の結果、FX17ではすべてのオイルを完全に検出することはできませんでした。
Pentisol油:ある程度検出可能
Würth油:布地上ではほぼ検出可能(吸収ピークは1393 nm)
Weldlite油:検出できず
データに対して主成分分析(PCA)を実施し、スペクトルに基づく観察結果を確認したところ、さらに、Specim FX17が検出できるオイルは、非常に微妙に区別できることが示されました。(図5)
・黄色のスペクトルはいかなる種類のオイルの影響も受けず、金属のみのスペクトルであるため、基準スペクトルとみなすことができます。
・オレンジ色のスペクトルはいかなる種類のオイルの影響も受けず、生地のみに関係しているため、基準スペクトルとみなすことができます。
2. Specim SWIR(1000–2500 nm)
SWIRカメラはFX17と同様の用途に加えて、より広い波長範囲により、多くの物質の検出が可能です。
スペクトル分析(図7・8)では、2200 nm以上の波長帯で強いスペクトル特性が確認され、Würth油およびPentisol油の検出に非常に適していることが分かりました。Weldlite油も一部検出可能でした。
また、PCAおよびPLS-DA(部分最小二乗判別分析)による分類モデルでは、Würth油とPentisol油が金属・布地の両方で検出・分類可能であり、Weldlite油は布地上では検出されたものの、金属上では確実な検出は困難でした(図9)。
・黄色のスペクトルはいかなる種類のオイルの影響も受けず、金属のみのスペクトルであるため、基準スペクトルとみなすことができます。
・オレンジ色のスペクトルはいかなる種類のオイルの影響も受けず、生地のみに関係しているため、基準スペクトルとみなすことができます。
3. Specim FX50(2700–5300 nm)
FX50は中波赤外域(MWIR)に属する2700~5300 nmの波長をカバーし、特に黒色を含むポリマーの選別に優れています。
検証の結果、FX50では金属表面および布地表面の両方において、3種類すべての油の検出が可能でした。3300~3500 nmの範囲で油の強い吸収が確認され、微小な油滴の検出も実現しました(図11・12)。
PCAおよびPLS-DAの分析により、FX50は金属・布地の両方から3種類の油を明確に識別できることが示されました(図13参照)。
・黄色のスペクトルはいかなる種類のオイルの影響も受けず、金属のみのスペクトルであるため、基準スペクトルとみなすことができます。
・黄色のスペクトルはいかなる種類のオイルの影響も受けず、生地のみに関係しているため、基準スペクトルとみなすことができます。
検査結果と活用メリット
今回の実験では、Specim社のFX17、SWIR、FX50の3機種を用いて、金属および布地に塗布された3種類の潤滑油(Weldlite、Würth、Pentisol)の検出性能を比較しました。
特に中波赤外(MWIR)域をカバーするSpecim FX50が最も高い感度と識別性能を示し、油の種類や塗布面にかかわらず、安定して分類・検出が可能であることが確認されました。
FX50は、油の化学的吸収特性が明確に現れる波長域を捉えることができるため、従来のRGBカメラや近赤外カメラでは困難だった微量油膜や異種油の識別にも対応可能です。
この特性により、製造ラインや品質検査において、目視では見落とされやすい油汚染の早期発見や製品のクリーン度管理の高度化が期待できます。
製品情報
ハイパースペクトルカメラ
Specim FXシリーズ
Specim FXシリーズは、可視光から長波赤外(約400〜12,300 nm)までの広範な波長領域を用途に応じたモデル構成でカバーするラインセンサ型ハイパースペクトルカメラです。高い分光・空間分解能に加え、マシンビジョン向けインタフェースに対応しており、高速かつ安定したデータ取得が可能です。
研究開発からインライン検査まで幅広く活用されており、成分分析、品質評価、異物検査、素材の選別など多様な課題に対して新たなソリューションをご提供します。



























