パルスオキシメータ知恵袋 基礎編

パルスオキシオキシメーターの用途

パルスオキシメータは何のために使われるの?

元々パルスオキシメータは手術時・麻酔時のバイタルサインモニターとしての利用から始まりましたが、パルスオキシメータは患者負担がなく、瞬時にリアルタイムの測定ができることから利用用途は大きく広がり、スクリーニング、診断、経過観察、自己管理などの様々な目的で利用されています。以下にそれらの利用例を紹介します。

1.疾病の重症度の判定


SpO2値単独ではなく、他の臨床症状と合わせて判定します。
たとえば、日本呼吸器学会「呼吸器感染症に関するガイドライン2000」では、以下の記載があります。

例1:肺炎の重症度判定
軽症:PaO2 >70Torr
重症:PaO2≦60Torr、SpO2≦90%

2.血液ガス測定のスクリーニング

病態把握のために血液ガス測定を行う必要があるかどうかの判定。

3.慢性疾患患者の急性増悪時の入院判定

SpO2 値単独ではなく、他の臨床症状と併せて判定します。
たとえば日本呼吸器学会「COPD 診断と治療のためのガイドライン第2版」では、以下の記載があります。

例1: COPD の急性増悪
I期(軽症)II期(中等症)のCOPDでの増悪時の入院適応
・呼吸困難の出現、増悪
室内気吸入下のPaO2<60Torr あるいはSpO2<90%

4.在宅酸素療法の適応・酸素処方の決定、在宅酸素療法患者の指導

(1)在宅酸素療法の適応判定


在宅酸素療法(HOT)の健康保険適応基準は以下の通りですが1.に関してはパルスオキシメータによる測定でも可能となっており、血液ガスとの併用が一般的です。

  1. 高度慢性呼吸不全例
    病状が安定しており、空気吸入下で安静時のPaO2 55mmHg 以下、もしくはPaO260mmHg 以下で睡眠時又は運動負荷時に著しい低酸素血症をきたすもの。
  2. 肺高血圧症
  3. 慢性心不全
    医師の診断により、NYHA III 度以上であると認められ、睡眠時のチェーンストークス呼吸がみられ、無呼吸低呼吸指数(1時間当たりの無呼吸数及び低呼吸数をいう)が20以上であることが睡眠ポリグラフィー上確認されている症例。
  4. チアノーゼ型先天性心疾患
(2)酸素処方の決定

酸素の必要量などは個々の病態によって異なるので、主治医は、患者ごとに適切な酸素供給源、酸素流量、吸入方法、吸入時間、安静時・労作時・睡眠時の吸入量を処方します。

(3)在宅酸素療法患者の指導管理

保険診療上、在宅酸素療法患者は最低1ヶ月に一度の医師による診断・指導管理を受ける必要があり、血中酸素飽和度のチェックを必ず行う必要があります。
また長期HOT患者では、定期的に終夜SpO2 モニターして、睡眠時に低下していないかを確認し、必要があれば睡眠時低換気の有無を検討するために睡眠ポリグラフィー(PSG)が行われます。

(4)在宅酸素療法患者への教育

自覚症状に乏しい、在宅酸素療法への心理的抵抗が大きいなどの理由で酸素療法を医師の処方通りに行えない患者に対し、日常生活においてパルスオキシメータを携帯させ酸素飽和度の低下を実感させることで、患者の酸素療法の取り組み意識を高めることにも利用されています。

5.慢性呼吸不全患者に対するNPPV(非侵襲的換気療法)の導入判定

拘束性換気障害(肺結核後遺症・脊椎後側弯症など)、COPD慢性期、肥満低換気症候群、チェーン-ストークス呼吸(CSR)、COPD急性増悪時、神経筋疾患患者などに対し、NPPV治療を行うかどうかの判定を行う際にSpO2 測定が行われます。

6.呼吸リハビリテーション運動療法のアセスメント・リスク管理

呼吸リハビリテーションの中核となる運動療法では、リハビリテーションを進める上で妨げになったり、運動中の危険性が増大するような合併症があれば、運動療法を行ってはいけません。そこで、運動療法を実施できる状態にあるか否かをスクリーニングをしておくことが必要となりますので、事前に運動アセスメントを実施します。
アセスメントには、安静状態でのSpO2測定及びパルスオキシメータを使った歩行試験が必須評価項目です。 また、運動療法中には酸素飽和度をモニターすることによるリスク管理が行なわれます。

7.入院患者のバイタルサインチェック


脈拍、体温、血圧、呼吸に加えSpO2は第5のバイタルサインです。呼吸器症状がなくても入院時に記載し、治療や検査によって呼吸機能への負担がある場合には、必要に応じてその後の経過を追っていきます。
特に呼吸器・循環器病棟では看護師による朝・昼・夕の回診の際に SpO2測定をルーティーン化としています。

8.慢性呼吸不全患者の在宅における日常管理

慢性呼吸不全患者さんがパルスオキシメータを日常使用するようになってきております。

9.睡眠時無呼吸症候群(SAS)のスクリーニング

睡眠時無呼吸症候群(SAS)のスクリーニングに、メモリー機能付の酸素飽和度測定器(パルスオキシメータ)が広く使用されています。
睡眠中の時間当たりの血中酸素飽和度の低下回数や時間経過による呼吸状態の変化から、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の可能性があるかどうかを判定します。

10.嚥下障害のスクリーニング、検査でのモニター

パルスオキシメータは嚥下障害のスクリーニング、検査のうち、摂食場面の観察時のモニターに使用されています。

11.多血症の診断

COPD などの肺疾患や睡眠時無呼吸症候群、心臓弁膜症などの心疾患、高地での生活などで酸素飽和度の低下が起こり、骨髄を刺激して赤血球の産生が増加することで、多血症となることがあります(二次性多血症)。
SpO2 測定を行い、多血症の原因を究明することにパルスオキシメータが使われることがあります。

12.内視鏡検査時などのモニタリング

気管支鏡検査ではパルスオキシメータは必要不可欠です。
検査前に前投薬として鎮静剤が使われますので、検査されている患者さまの様態を、心拍の変動、SpO2の変動をモニタリングすることで、安全に検査が行えるようにしております。
胃カメラや大腸ファイバーでも同様にパルスオキシメータがしばしば使われています。

13.呼吸器疾患患者の歯科治療時のリスク管理

呼吸器疾患患者に歯科治療を行なう際には、治療中の発作(喘息)、治療による呼吸困難の発生、細菌感染による呼吸器疾患の急性な増悪、等の緊急事態の発生が予測されます。
治療時のリスク管理のために、パルスオキシメータによるモニタリングが行なわれています。

14.エコノミー症候群の疑い検査

飛行機の中などで長時間座った状態でいることで起こるとされるエコノミー症候群(肺塞栓症)の診断には、足の静脈の超音波検査、心臓の超音波検査、造影剤を用いたCT検査などを行います。そうした検査を行う必要があるかどうかエコノミー症候群の疑いがあるかどうかを確かめるために、足のはれ、息切れなどの症状、それまでの患者様の過ごされ方などの確認とともにパルスオキシメータでの低酸素血症の有無を検査します。

肺血栓塞栓症は長時間の同じ姿勢を取り続けることなどで発症しますので、地震災害などでの車中泊を例えば3日以上行ったり、高齢者の方が避難所生活で体をあまり動かさない状況でも発症率が高まります。

15.下肢整形手術(大腿骨近位部骨折手術)後の肺血栓塞栓症の早期発見

高齢者、特に女性では骨粗鬆症などで骨がもろい状態で転倒により年間約10万人が大腿骨近位部骨折をしており、今後。高齢化が進むにつれて増々えていくことが予想されています。
大腿骨頚部骨折は様々な問題(寝たきりの状態でいるために褥瘡(床ずれ)、尿路感染症、肺炎、痴呆など)を起こす可能性が高く高齢者の場合、全身状態が許せば手術によって早期に痛みをとり体重をかけられるようにして、リハビリを開始することが望ましいと考えられています。
一方で、整形外科の下肢手術では長期にわたる安静や下肢血流障害のために術後の静脈血栓塞栓症、肺血栓塞栓症の発生頻度も高くなります。
下肢整形手術後に、リハビリを開始するとともに頻回の酸素飽和度測定にモニタを行うことで、無症候性静脈血栓塞栓症や軽症の肺血栓塞栓症を早期発見に活用されます。

16.災害医療

大規模災害が生じた場合には、携帯性に優れ簡易に呼吸・循環状況の確認できるパルスオキシメータが活躍します。
災害直後の救急時には、頭部外傷などによる意識障害者の気道確保(気管挿管)や酸素投与が即座に行われなければなりませんが、その際にはパルスオキシメータで呼吸状況のモニタリングを行います。
広域災害時には限られた医療資源の中で、治療の優先順位(トリアージ)をつけることが必要となります。「蘇生」「緊急」「準緊急」「非緊急」の判断をする際に、呼吸循環状況の指標である酸素飽和度は重視されます。
また、避難所での長期の生活は特に高齢者には困難で、従来から罹患する慢性疾患(高血圧、糖尿病、心疾患)の悪化、胃潰瘍、肺炎などの呼吸器感染症などストレスや生活環境の悪化による疾患による死亡(災害後関連死)が心配されます。避難所における高齢者ではこれら慢性疾患、ストレス関連疾患、感染症などの早期トリアージによる予防、早期治療が重要であり、パルスオキシメータが活用されます。

日本老年医学会の「高齢者災害時医療ガイドライン-2011-(試作版)」には、自治体が備蓄すべき医療機器として、パルスオキシメータが上げられ、以下の症状での検査機器に挙げられています。

  • ショック
  • 言語障害
  • 意識障害・失神
  • 麻痺
  • めまい
  • 感染症の症候
  • 発熱
  • 咳・痰
  • 喀血
  • 感染性胃腸炎
  • 膀胱炎
  • 丹毒・蜂窩織炎
  • 肺結核症(慢性呼吸器感染症)
  • 腎疾患
  • 認知症に伴う精神症状
  • 頭部外傷
  • 老年症候群(廃用症候群や寝たきり、褥瘡など)
  • 転倒・骨折

17.新型インフルエンザ対策

新型インフルエンザ発生時には発熱症状の外来患者を感染拡大を防ぐことと、増加する患者を適切な医療機関に振り分けるために他の患者から隔離した場所で初期診察することが必要となります(発熱外来)。
インフルエンザの重症化による肺炎の可能性を確認するため通常時は聴診や胸部X戦検査を行いますが、感染拡大防止時には体温や呼吸数、視診、簡単な問診で病状を把握し、パルスオキシメータによる酸素飽和度の低下の有無によって重症判定を行い、低下が認められる時には直ぐに入院治療に入るという判断などが行われます。

また、WHOの新型インフルエンザA (H1N1)ウイルスのヒト感染に関する臨床管理:暫定的手引き(2009年5月21日)でも「診察あるいはトリアージ、そして引き続き入院患者としてのケアの間にルーチンに、酸素飽和度を可能ならばいつでもパルスオキシメータで監視するべきである。」との提言がなされております。

18.小児夜間救急夜間・休日の初期救急での看護師によるトリアージ

小児夜間救急夜間・休日初期救急で治療開始を緊急に判断する必要がなく、対応できる医師数が限られている場合に、看護師が患者の初期評価法(トリアージ)を行う事例が「医療とIT」の事例研究で紹介されています。
トリアージのフローと評価判定には、主に全身状態の評価に用いられる「小児評価トライアングル」(PAT)という手法とバイタルサインを用いていますが、バイタルサインの評価の中でパルスオキシメータによる酸素飽和度を「蘇生」「緊急」「準緊急」「非緊急」のふるい分けに利用しています。

阪神北広域こども急病センター(兵庫県伊丹市):iPadを用いたトリアージシステム構築

非医療分野での使用例

19.高山病予防

標高が高くなるにつれ酸素の濃度は薄くなっていきます。高所登山やトレッキングには、酸素不足による高山病の危険が伴います。その為、高所トレッキングツアーなどでは、高山病の予防のために小型パルスオキシメータを携行することが常識的になってきています。
日本登山医学会でも、そのホームページで、高山病の予防にためのパルスオキシメータの利用を紹介されています。

20.アスリートの強化(低酸素室トレーニング時のコンディション管理)

高所トレーニング

スポーツ選手の持久力の強化のために高所トレーニングが行われます。高地順化の程度には個人差があり、酸素飽和度、脈拍数を測定し、トレーニング強度を設定したり、選手のコンディション管理に活用します。
日本中を熱狂させた2010年サッカーワールドカップでは、南アフリカの1400mの高地で開催されました。「事前準備」「事前高地合宿」「低地に下りてからの効果維持」での高地順化の把握、コンディショニングにパルスオキシメータが活用されています。

低酸素室トレーニング時のコンディション管理

高地トレーニングの事前準備や高地に行かずにスポーツ選手の持久力の強化を行うために、高所と同様の低酸素環境を作り出し、その中でトレーニングをする低酸素室トレーニングが行なわれるようになってきています。
低酸素室トレーニングを行なっているスポーツ選手の、起床時やトレーニング時の酸素飽和度を測定し、選手の低酸素に対する馴化の程度やコンディションを把握します。

21.スポーツ選手のコンディショニングチェック

2010年サッカーワールドカップで高地順化の把握、コンディショニングにパルスオキシメータが活用され、その後、アイスホッケー、フットサル、陸上競技、ゴルフなどのトップアスリートを中心に、日常でのセルフコンディショニングに使用されるようになってきました。
スポーツ現場で、自分自身の体調を「知る」ことにより、事故を予防し試合で良いパフォーマンスを出すためのツールとしてパルスオキシメータが活用されています。

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パルスオキシメータはどこで使われるの?

パルスオキシメータは当初は、病院の手術室、麻酔室で普及しましたが、これら急性期で使用されるオキシメーターは据え置き型タイプあるいはパルスオキシメータだけでなく心電図やその他の重要バイタルサインを同時に測定できる生体モニタが使われています。
また、回復室や手術直後の亜急性期には、据え置き型に加え、テレメーターやモニター用途のハンドヘルドタイプの機器をベッドサイドに固定して利用しています。これらは症状の突然の悪化などを知らせるアラーム機としての目的で使用されます。
一方、小型の携帯型パルスオキシメータは病院での使用は勿論ですが、病院外でも多く使用されております。
小型の携帯型パルスオキシメータの使用場所を紹介します。

1.病院病棟

特に呼吸器・循環器病棟で看護師により使用されています。一番の用途は入院患者のバイタルチェックです。脈拍、体温、血圧、呼吸に加えSpO2 は第 5のバイタルサインとして、朝、昼、夕の入院患者の状態の把握にパルスオキシメータが使われます。

2.病院外来


主に呼吸器科ですが、血液検査のスクリーニングとしてまずパルスオキシメータが使われます。医師にもよりますが、呼吸器 疾患が疑われる患者さんであれば、まずパルスオキシメータでSpO2 を測定し、その患者さんの基本的な SpO2 を把握しておき、症状悪化時の参考データとされる方もおられます。

3.病院呼吸機能検査室・リハビリ室


呼吸機能検査・歩行試験などの検査・アセスメントにパルスオキシメータが使用されます。病院により検査技師が行ったり、理学療法士が行ったりします。また、リハビリ時のリスクマネージメントに理学療法士が SpO2の低下度合いや、脈拍の上昇度合いを随時確認するなどに利用されています。

4.救急車両


1991年に救命救急法案が制定され、一定の医療処置が救急車内で実施することが可能となり、救急車両へのパルスオキシメータ搭載が始まりました。

5.診療所(臨床内科医)


低酸素血症は呼吸器だけでなく、循環器、神経系でも起こります。病態の把握、鑑別診断、重症度の判別、特に専門病院への転送の 判断を行うなどで、呼吸器内科系だけでなく一般内科でもパルスオキシメータが使用されています。また、訪問診療や往診時の必需品として携帯型パルスオキシメータが利用されています。

6.訪問看護ステーション

訪問看護をうけている患者さんには高齢者の方が多く、呼吸器疾患が主要疾患でない場合でも、呼吸器・循環器に何らかの不具合を持たれている方が大半です。SpO2 測定は患者さんの不具合を発見するツールとして訪問看護師さんの間で広く使われるようになってきております。

7.老人健康保険施設


病状が安定したお年寄りの自立の支援を行い、家庭への復帰を目指す老人健康施設でもパルスオキシメータが活躍しています、 入所患者のバイタルチェック、特に夜間の増悪時や、デイケア、施設呼吸リハビリなどに利用されています。

8.その他

気圧が低くなりますと吸入気の酸素分圧も下がり、結果酸素飽和度も低下します。
飛行中や高所登山では酸素飽和度の低下による事故を防止するためにパルスオキシメータが利用されています。飛行機旅行をされる在宅酸素療法患者、航空機会社、高所登山隊などで小型携帯型パルスオキシメータが利用されています。
またスポーツ分野でも高所トレーニング/低酸素室トレーニングなどでパルスオキシメータが使われています。

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