コニカミノルタ

統合報告書2017

Giving Shape to Ideas

コーポレートガバナンス対談

持続的成長と
企業価値向上に向けて
中期経営計画の
モニタリングを強化

取締役会議長
松﨑 正年

社外取締役
釡 和明

取締役会議長
松﨑 正年

Profile

コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社取締役、コニカミノルタテクノロジーセンター株式会社代表取締役社長を歴任後、当社取締役兼代表執行役社長を経て、2014年4月から現職。

社外取締役
釡 和明

Profile

株式会社IHI代表取締役社長、会長などを歴任。2014年6月から当社社外取締役を務める。2015年6月から2017年6月まで報酬委員会委員長を務め、2017年6月から監査委員会委員長。

取締役会の実効性向上に向けて 近年、コーポレートガバナンスの重要施策として「取締役会の実効性向上」への注目が高まっています。
この課題に対するコニカミノルタの取り組みを教えてください。

松﨑
まず、当社が、いつから実効性評価を始めたかをお話しますと、経営統合して「委員会等設置会社」のガバナンス体制へと移行した翌年の2004年度のことです。ガバナンスシステムの設計に携わった前会長(当時)の植松富司氏が、1年間、取締役会議長として実際に制度の運用にあたった後、意図通りにガバナンスが機能したかどうか、つまりPDCAのC(チェック)をやりたいということで、取締役会メンバーへのアンケート形式による自己評価を始めました。
取締役会評価の実施などを求めた「コーポレートガバナンス・コード」の適用開始が2015年6月ですから、その10年以上も前から自主的に取り組んでこられたわけですね。
松﨑
はい。その後もいろいろ改善を施しながら、毎年、アンケートによる取締役会評価を実施してきました。私が議長に就任した2014年度以降も大きな改善を2つ試みました。1つは、アンケートの自由記述欄を増やしたことです。単に達成度などを段階評価してもらうだけでなく、その評価の背景にある個々の意見を汲み上げたいと考えたからです。従来、アンケートの回答用紙は無記名も可としていましたが、ほとんどの取締役から記名で回答されていました。回収後、必要があれば直接会ってもっと詳しく話を伺うこともあります。そしてもう1つが、評価結果を反映させた新年度の運営方針の表明です。せっかく時間をかけてアンケートに答えていただいたのですから、そうした意見を次の1年の取締役会の運営にどのように活かしていくかを議長としてきちんとコミットすべきと考えました。
毎年、株主総会の後に、取締役会がその日のうちに開催されまして、そこで、松﨑議長からアンケート結果に基づいた、今年度の方針を説明していただいています。まさにPDCAのA(アクション)ですよね。

こうしたコニカミノルタのコーポレートガバナンスについて、
社外取締役としてどのように評価されていますか。

一言でいえば、コーポレートガバナンスの先進企業だという印象が強くあります。コーポレートガバナンスの目的は何かというと、持続的成長と企業価値向上ですよね。当社(コニカミノルタ)は、そのために必要なガバナンスは何かということを常に追求し、PDCAを回し、改善しています。社外取締役を含めた取締役会メンバーの構成もバランスがとれていますし、ガバナンスの運用を支えるバックグラウンドの仕組みも十分に練られていて、非常にうまく機能しています。なかでも、特長的なのが、取締役会の最後に行われるCEOによる業務執行状況の月次報告です。内容も単なる事業執行報告にとどまらず、CSR関係の取り組みや決算説明会などでの投資家の意見、従業員向けに実施した施策など多岐にわたっています。社内で起こっているさまざまな事象の中から重要事項を、全執行役を代表してCEOから毎月的確に報告していただいており、業務の執行状況をモニタリングする社外取締役の立場から考えても、非常によく工夫された仕組みだと思います。各執行役は3カ月に一度以上、担当職務の業務執行状況を報告することが会社法で定められていますが、こうした運営方法を実現できたのも、いち早くガバナンス構築に着手すると同時に、絶えずPDCAサイクルを回してこられたからではないでしょうか。

2016年度は取締役会実効性評価を第三者に委託されましたが、
その狙いをお聞かせください。

松﨑
これまでもいろいろと設問を工夫しながら調査してきたのですが、当事者の視点だけでは何か見落としてきた課題もあるのではないかと考え、外部機関にアンケート作成・分析作業を委託することにしました。さらに社外の第三者だからこそ客観的に調査・分析できる項目──具体的には、取締役会議長である私の働きぶりについて適切に評価していただくことも大きな目的です。
今回のアンケートは、設問も網羅的でしたので、いろいろ新しい気づき、発見がありましたね。
松﨑
その1つが、取締役会の議題の選定についてです。これまで私は、議長として、当社経営上の課題に焦点をあてて議題を選定してきたのですが、一方で、現状うまくいっていることについては、あまり取り上げてきませんでした。
例えば、ESG(環境・社会・ガバナンス)もその一つですよね。当社は、Dow Jones Sustainability World Indexに連続して選定されるなど、ESGについてはすでに高く評価されています。しかし、現状うまくいっていることでも、意見したいことがあるので議題に取り上げてほしいという思いは、私たち社外取締役も持っていました。
松﨑
そうした要望があることが今回の外部アンケートによって明らかになりましたね。そしてもう1つ新たな気づきとしてあったのが、役員へのトレーニングです。最近、社外取締役に十分役割を果たしていただくためにトレーニングの機会を提供する動きが盛んになっています。もちろん、当社でも有用なセミナーなどをご紹介するケースはありますが、当社の社外取締役の方々は経営トップを経験するなど、いずれも一定以上のベースを持った方々なので、トレーニングよりも当社をもっと深く理解していただくための情報提供の方が重要であると認識していました。それよりもむしろ、社内取締役の方がもっとトレーニングの機会を必要としているという調査結果になりました。社外取締役に比べれば、まだ取締役としての経験が少ないメンバーも含まれるわけですから、確かにその通りだなと納得させられる結果でした。

釡さんは、今年度から監査委員会委員長に就任されましたが、
どのような点を重視して監査を行っていく方針でしょうか。

先日開催した第1回の監査委員会において、今年度の重点監査項目を発表し、全会一致で承認されました。そのポイントは3つあります。1つは、経営管理プロセスの有効性・妥当性をもっと踏み込んで検証していくこと。2つめは、日常的な業務執行のプロセスについてもチェックしていくこと。そして3つめのポイントが、海外を含むグループ会社の経営をしっかり見ていこうということです。
松﨑
その3つが監査委員会としてのスタンスということですね。それらに加えて、釡さん個人として何か着目している課題はありますか?
3つの重点項目のなかにも含まれる課題ではありますが、やはり重大リスクや潜在的なリスクをいかにして適切に管理するかですね。近年、大企業による不正会計問題が取り沙汰されていますが、そうした問題が起こるリスクがより大きいのは、一般的には新たに買収した会社だったり、海外の関連企業だったり、また子会社よりも孫会社といった資本関係の薄い会社だったりするわけです。
松﨑
相対的にガバナンスが効きにくい会社のリスクにより注目すべきということですね。
はい。社会で起こっているさまざまな問題を“他山の石”として、当社グループにも同じようなリスクが潜んでいないか、もっと注意深くチェックしていかなければならないと考えています。もちろん、大規模なM&Aや設備投資などに伴う減損リスクについても、監査委員会として十分ケアしていく方針です。ただし、社外取締役の立場からするとリスクにセンシティブなので、どうしてもブレーキを踏みがちになるのですが、リスクが大きくても中長期的な成長と企業価値向上に欠かせない投資と判断した場合には、リスク低減に向けた助言を行うなど、成長戦略の実現をサポートしていきたいと思います。
松﨑
やはり、リスクを取っていかないと企業は成長できませんからね。ただし、そのリスクが大怪我につながるリスクなのかどうかを慎重に判断していく必要があります。ですから取締役会の場では、私としては必要なリスクは取っていこうと言い続けていますが、社外取締役の方には、皆さんの経験を踏まえて、“この点には注意しろよ”といったことをどんどん言っていただくようにしています。

新中期経営計画「SHINKA 2019」の達成に向けて 前中期経営計画「TRANSFORM 2016」の結果を、
取締役会としてどのように総括していますか。

松﨑
前中期経営計画の3年間では、グローバリゼーションやデジタルイノベーションの進展など、急激な環境変化に対応するための業容転換(トランスフォーム)をテーマに掲げ、海外M&Aや新規事業プロジェクトなど推進してきました。ただし、新規事業などは成果がすぐに現れるわけではないので、実際に業績の数字を支えるのは情報機器などの基盤事業です。もちろん基盤事業についてもソリューションビジネスの強化などによる収益力向上に取り組んできたのですが、結果的に中期経営計画の経営目標を達成できなかったことは大いに反省しなければならないと考えています。
積極的なM&Aや先行投資によって、新たな成長に向けた布石を打つことができたのは評価すべきだと思います。その一方で、業績という結果が伴わなかったことは、やはり反省点となると思います。
松﨑
中期経営計画の期間中も、取締役会では各事業の業績見通しやその背景にある市場動向などについて担当執行役からヒアリングしてきたのですが、一時的な変化か構造的な変化かの見極めを含め、環境の変化が想定以上に速く、対応が後手に回ってしまう形になりました。やはり、それぞれの事業について、もっと早い段階から計画的にレビューを実施し、必要な対策を講じられるよう備えておくべきでした。この教訓は、次の中期経営計画に必ず活かしていきたいと考えています。
当社は、私たち社外取締役の目からも見てもガバナンス面で非常に優れた会社なのですから、それに相応しい財務的な数字を上げていくことが、当面の大きな課題だと思います。もちろん、私自身も、その実現のために監督の立場から貢献できればと考えているところです。

新中期経営計画「SHINKA 2019」の始動にあたり、
取締役会はどのような役割を果たしていきますか。

これからの3年間は、業容転換をさらに加速させるとともに、企業としての“稼ぐ力”を確実に高めていくことが重要になります。新しい中期経営計画については、その策定プロセスのなかで、何回も全社経営計画や事業課題の検討状況の報告を聞き、議論を重ねてきました。新中期経営計画では、「基盤事業」「成長事業」「新規事業」という3つの事業分類によるポートフォリオマネジメントを導入し、基盤事業の収益力を強化すると同時に、経営リソースの再配分による新しい事業構造・収益構造を構築していこうという決意が込められた計画になっています。社外取締役、そして監査委員長の立場からも、この計画の進捗状況をしっかりとチェックしていきたいと考えています。
松﨑
新中期経営計画では、前中期経営計画で仕込んできた成長事業・新規事業を着実に伸ばし、最後の3年目までにきちんと結果を出さなければならないと考えています。取締役会では、その実現に向けて各事業の進捗状況をモニタリングしていくわけですが、特に重視しているのがM&Aに対するPMI(Post Merger Integration)です。過去3年間に承認してきた主要なM&A案件について、一つひとつきちんとモニタリングしていこうと思います。

今年の7月には、米国のアンブリー・ジェネティクス社(以下、AG社)の大型買収も発表しましたが、
コニカミノルタにとって大きな決断だったのではないでしょうか。

松﨑
AG社のM&Aは、これまで当社が行ってきたM&Aよりも規模は大きいのは確かです。しかし、私が社長の時もそうだったのですが、今の社長の山名も、単なる規模拡大のためではなく、当社の戦略を実現するために足りないピースを獲得することを目的にM&Aを行っています。
元々、ヘルスケア事業を当社の成長の柱にしていこうという思いがあり、どういう方向で成長させていくかを議論してきましたね。
松﨑
はい。特に、製薬会社の効果的な新薬開発や患者様への最適な投薬・治療に貢献するプレシジョン・メディシンの分野で、当社の強みを発揮していきたいという強い思いがありました。それを実現するために、当社に足りない部分を持っている会社を前々から調査してきたなかで、当社とのシナジーや規模などの観点から最適だったのが、世界トップクラスの遺伝子診断技術を有するAG社でした。

新中期経営計画の開始に合わせて、
役員報酬制度を改定されましたが、その狙いは何ですか。

松﨑
釡さんが報酬委員会委員長を務められていた時に、“執行役の報酬体系は、中期経営計画にコミットするという観点からも、もっとインセンティブ色の強い内容にすべき”との議論があり、それをきっかけに今回の改定に至りました。
これまでの当社の執行役、および取締役を兼任する執行役の報酬体系は、固定報酬と業績連動報酬および株式報酬型ストック・オプションでした。業績連動報酬は、一言でいえば単年度の業績を反映させた短期業績連動型であって、株式報酬型ストック・オプションも中長期の株価アップダウンは反映されますが、中期経営計画の業績達成を直接反映するものではありませんでした。
松﨑
中期経営計画の目標達成へのモチベーションを高めるためには、短期的なインセンティブだけでなく、複数年度の業績や企業価値などに連動した報酬制度に改定すべきと考えたわけですね。
はい。そこで2017年度から新たな中期経営計画がスタートするにあたって、計画達成へのインセンティブになる報酬制度をつくりたいと考え、約2年間かけて議論してまとめたのが、今回の中期業績連動株式報酬制度です。その大きな特徴は、中期経営計画における業績目標の達成度に応じて役位別に定めた基準株式数に対して0%~150%の範囲で当社株式を交付することです。BIP(Board Incentive Plan)信託と呼ばれる仕組みを活用して株式を交付するのですが、役員は交付された株式を原則退任1年後まで継続保有することも定めており、中期経営計画の目標達成へのインセンティブに加え、自社株保有の促進も図ります。
松﨑
従来の制度に比べて短期・中期を合わせた業績連動報酬の割合が増えましたから、目標達成・業績向上へのモチベーションを高める効果が期待できます。
一般的に日本企業の役員報酬は、欧米に比べると固定報酬の割合が圧倒的に高いのが特徴なのですが、やはり今回の新制度のように業績をきちんと上げて、それに相応しい報酬を受け取るのが、役員報酬のあるべき形だと考えています。

今回の改定では、役員の報酬決定プロセスにESGの視点も盛り込まれましたが、
その意図を教えてください。

中長期的な企業価値向上を実現するためには、業績に直結する施策だけでなく、ESGのように定量的に把握するのが難しい取り組みについてもきちんと年度ごとに評価していく必要があると考えたからです。ESGは中長期視点で捉えるべき経営課題ですが、1年1年の施策や取り組みに落とし込むことが大切ですから、いろいろ検討を重ねた結果、長期インセンティブ報酬部分ではなく、年度業績連動金銭報酬に関係づけることにしました。具体的には、各執行役の担当職務における「重点施策の推進状況」という定性的な評価項目のなかにESGなどの非財務指標に関わる取り組みも適宜含めていく、拡充していくものと考えました。
松﨑
ESGとは、本来、経営トップから各事業の現場まで、グループ全体を挙げて取り組むべき重要な経営課題です。今回、執行役の業績評価にESGが考慮されたことをきっかけに、ESGとは決して特別な取り組みではなく、“事業活動を通じて社会に貢献していくこと”という考え方を、執行役はもとより全社に浸透させていければと思います。
それだけにESGの対象となる領域は非常に幅広く、さまざまな指標が存在しています。経営指標とともにESGなどの非財務指標に関わる職務の業績評価を見ていくことについても、報酬委員会を通した監督の一環と考えています。
松﨑
このESGに関して、取締役会ではこれから次の2つについて重点的にモニタリングしていこうと考えています。1つは、2015年9月に国連で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)への対応です。新中期経営計画では、このSDGsに盛り込まれた17分野にわたる幅広い社会課題に対して、具体的な目標を掲げて取り組む方針であり、取締役会としてもその進捗状況を適切にモニタリングしていきます。そしてもう1つが、本来の事業活動を通じたESGの推進です。この取り組みをさらに加速させるため、新中期経営計画では、当社の目指す姿として「課題提起型デジタルカンパニー」という将来像を打ち出しました。

最後に、新中期経営計画の達成に向けた、取締役会としての決意をお聞かせください。

新中期経営計画では、前中期経営計画で推進してきたトランスフォームを一層加速させ、中長期的な成長を支える新たな事業構造の構築を目指しています。もちろん成長事業や新規事業にリソースを振り分けながら、計画最終年度までに確固とした収益基盤を確立するのは容易なことではありません。しかし、基盤事業を取り巻く環境が厳しさを増すなか、執行側も“この計画をやり遂げなければ未来はない”という不退転の覚悟で取り組んでいるはずです。そうした執行側の思いをしっかりと受け止めて、取締役会としても各事業の進捗状況を的確にモニタリングし、計画達成をサポートしていこうと考えています。
松﨑
取締役会での非執行の社内取締役や社外取締役の大きな役割は、執行とは独立した客観的な立場から意思決定のプロセスや経営状況などをチェック、モニタリングすることにあります。ただし、モニタリングは手段であって目的ではありません。先ほど釡さんがおっしゃったように、コーポレートガバナンスの目的は、あくまでも持続的な事業成長と中長期的な企業価値向上の実現です。今回スタートした新中期経営計画も、5年先を見据えながら今後3年間の具体的な事業戦略や経営目標を示したものです。それだけに、一つひとつの議案をしっかりとチェックしてリスクを管理するのはもちろん、近視眼的な判断に陥ることなく、中長期的な視点から助言を行うなどして計画の実現を支えていくことも、取締役会に求められる役割だと思います。