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ヘルスケア

ドクターズインタビュー
白石吉彦先生 肩こりの診かた
隠岐島前病院院長

外来超音波診療 肩こりの診かた

はじめに

2016年の厚生労働省の国民生活基礎調査によると日本人の具合の悪い症状で男性では頻度が高いのが、1番腰痛、2番目が肩こり、女性では1番が肩こりです(図1)。
心臓、大動脈や神経疾患の症状として肩こりがおこっていることもあり、特に急性の肩こりには注意を要します。ただし、プライマリケアの外来診療で診る肩こりのほとんどは運動器の症状です。
命に別条のない、たかが肩こりですが、ひどくなると頭痛、吐き気、はじめにめまいなど日常生活に支障をきたす様々な症状を呈します。
肩こりが主訴で医療機関を受診する場合は症状が相当ひどく、何とかしてほしいという切なる願いがあるのだと思います。
葛根湯、NSAIDs、湿布などが処方されたり、トリガーポイント注射が行われます。
今回は一歩上のトリガーポイント注射※1、すなわちエコーガイド下Fascia hydrorelease について説明します。

※1 トリガーポイント注射
医科点数表の解釈(社会保険研究所)
L104 トリガーポイント注射 80 点
トリガーポイント注射は、圧痛点に局所麻酔剤あるいは局所麻酔剤を主剤とする薬剤を注射する手技であり、施行した回数及び部位にかかわらず、1日につき1回算定できる

図1 性別にみた有訴者率の上位5症状(複数回答) 2016 厚生労働省 国民生活基礎調査より

Fascia hydrorelease

まず最初に

Fascia ってわかりますか?残念ながら現在のところ、適切な日本語訳がありません。人体に張り巡らされている線維性結合組織の総称、具体的には筋膜、胸膜、腹膜などの膜、そして脂肪や腱、靭帯、神経鞘などを指します。なぜ重要かというと、Fascia上に侵害受容器が数多く分布するのです。Fascia が包んだり、繋がったり、うまく滑ったりすることで機能している運動器が、いったん不具合が起こると、侵害受容器が過敏となり、通常では感じない刺激で痛みを感じたり、痛みのために滑走性が低下したり、可動域制限や機能不全を起こします。痛みのためにさらに動かさなくなり、痛み物質の停滞やさらなる機能不全を起こしていくという悪循環となります。

日本の国鳥キジのFascia

何を打つのか

痛みが起こっている場所に局所麻酔剤を含む注射を行い、いったん痛みをリセットするのがトリガーポイント注射と考えられています。しかし、実は局所麻酔薬が含まれていなくても、痛みが取れることがわかってきたのです。1980年、Lancet に急性局所筋肉痛にメピバカインよりも生理食塩水の注射の方が効果があったということが報告されています[1]。
2016年にはエコーガイド下で筋外膜(筋肉と筋肉の間の膜)に生理食塩水、重炭酸リンゲルの注射をおこなうことでメピバカインよりも筋膜性疼痛症候群に対して効果が高かったと報告されています[2]。
生理食塩水はPh が5 ~6と酸性で少し注射時痛があるのですが、重炭酸リンゲルはPh7. 3となっており、注射時痛が軽減できます。

[1]Frost FA et al. A control, double-blind comparison of mepivacaine injection versus saline injection for myofascial pain. Lancet 1980; 1(8167): 499-500.
[2]T.Kobayashi et al. Effects of interfascial injection of bicarbonated Ringer's solution, physiological saline and local anesthetic under ultrasonography for myofascial pain syndrome-Two prospective, randomized,double-blinded trials-. 金沢大学十全医学雑誌2016; 125: 40-49.

どこに打つのか

メカニズムの詳細は現在のところまだ、推論の域を出ませんが、Fasciaがドライになり、滑走性や柔軟性が低下したところに、液体が入ることによって機能が戻るのではないかと考えています。
通常押さえて痛いところにトリガーポイント注射を打ちますが、非常に効果がある場合と、そうでもない場合があります。
それはこのFasciaに、特に筋外膜にピンポイントで薬液が注入されたかどうかによるのではないかと考えています。
そして、その精度を高めるための、エコーガイド下注射です。

よく痛める肩こりの筋肉

肩甲挙筋

触診
肩甲骨上角を触れたら、その頭側、僧帽筋の深層に肩甲挙筋があります。肩こりでは、かなりの頻度でこの場所に筋硬結を触れます。手を頭にのせてもらうと、肩甲挙筋の圧痛は軽減します。

肩甲挙筋は肩甲骨を挙上すると収縮します。

菱形筋

触診
患者の背側から肩甲骨に指を置いたあと、両肩同時に外転を指示します。肩甲骨が上方回旋していくときに左右差がないかどうか見ていきます。上方回旋がうまくいかず、遅れたり、内側に引っ張られたり、頭側に動いたりと変な動きをすることがあります。既出の肩甲挙筋や肩甲骨内側にある菱形筋の障害が疑われます。

菱形筋は肩甲骨を内転(真ん中に寄せる)と収縮します。

肩甲挙筋リリース

よくある質問

エコーガイド下Fascia hydrorelease で合併症はありますか? 誤穿刺について

当然人体に針を刺すために合併症は起こりえます。ただし、細い針を使うこと、エコーを使う事、解剖を理解することで最小限まで減らすことができると考えています。
通常27G や25G の針を使用しています。また目的とする筋外膜などのFasciaまでの距離がエコーを当てることで正確にわかりますから、適切な長さの針を選択することができます。
血管や神経、肺などのエコー解剖を理解し、エコー下で針先を描出することで誤穿刺を避けることができます。

消毒について

一般的に筋外膜への注射はいわゆる筋肉注射と同じですから、プローブの横の穿刺部位のみをアルコール消毒をして注射を行います。
関節腔などの血流がなく、無菌のスペースに針を進める時にはアルコール+イソジン消毒、もしくはクロールヘキシジン消毒を行います。

感染について

27Gや25Gなどの細い針を用いることで場合、消毒の種類によらず、感染の発生は極めて稀であると考えています。
ただし、明らかに感染を起こしやすい状態、免疫不全患者、癌末期、コントロールされていない糖尿病、重度のアトピー性皮膚炎などでは、消毒を十分に注意して行い、リスクがある場合は治療者と患者の双方が納得した状態で治療を行う必要があります。

何を打ちますか

現時点でわかっていることからは重炭酸リンゲルがFascia hydroreleaseに最適な薬液と考えられます。
ただし、注射時痛が少ないものの重炭酸リンゲルは点滴製剤であり、注射製剤として保険請求はできません。
またトリガーポイントで保険請求するためには局所麻酔薬の混合が必須です。自由診療とするか、生理食塩水と局所麻酔剤を混合したものを使うか、重炭酸リンゲルと局所麻酔剤を混合し、局所麻酔剤のみ保険請求する、という選択になるかと思います。

エコーのコスト

エコーガイド下Fascia hydroreleaseをする際にエコーを使用しますが、これに関しては保険請求はしていません。初診時に構造的異常(腱板断裂や腱鞘炎など)が疑われるときにはエコーでスキャンをして画像を保存し、所見を記載し、診療報酬請求を行っています。※2

※2 医科点数表の解釈(社会保険研究所)
D215超音波検査(記録に要する費用を含む)
ロ)その他(頭頸部、四肢、体表、末梢血管等)350点

最後に

正しい罹患筋、発痛源にhydrorelease されれば、注射直後に即時的に効果が得られます。
ただし、通常肩こりは慢性のことが多く、原因は仕事を含めた生活環境にあります。
原因が改善されなければ多くの場合は1週間程度で元に戻ってしまいます。
そういう意味ではhydroreleaseは診断的治療として、発痛源の同定という意味もあります。
発痛源が同定されれば、なぜ右の肩甲挙筋が痛むのか、なぜ菱形筋に凝りが生じるのかという原因検索を行い、再発予防への提案をしていくことになります。

例えばコンピュータを使う時間が長く、モニターが右側にある場合の左肩甲挙筋や、眼鏡のずれによる頚部の伸展癖による肩甲挙筋の凝り、机の高さがあっていないことによる肩甲骨の位置異常による菱形筋の痛みなどです。
来院される高血圧や糖尿病の内科疾患の患者さんの多くは肩こりを訴えています。
痛み止め、湿布から一歩上の肩こり診療を行ってみませんか。
通常トリガーポイントに伴うエコーの手技料は請求できないし、トリガーポイント注射は80点しかありません。
しかしエコーを使うことによって、ピンポイントでの治療部位の確認ができます。
たとえ効果がなかった時にもその部位が発痛源ではないということが確認できるのも意味があることです。
エコーを使わない場合に比べて、より精度高く患者さんの症状を緩和することができます。患者さんの笑顔という医師にとっての最大の報酬を得られるはずです。

レクチャー動画

ダイジェスト版「超音波診断装置は今、検査機器から診療の道具へ」

白石先生によるレクチャー動画のダイジェスト版です(再生時間:5分37秒)。
「腰痛、肩こり、五十肩」の診療のポイントを分かりやすく説明しており、動作分析、圧痛点の確認、エコーで筋肉の同定を学ぶことができます。

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