Technologies for the Future

蛍光ナノイメージング

がん治療を変革する免疫染色技術×解析技術

Background
がん細胞を
ピンポイントに発見
個別化医療の時代へ

社会の高齢化に伴い、がんの罹患者数は年々増加しています。医療技術の進歩によりがん治療は格段に進化し、死亡率はやや減少傾向にありますが、それでもなお日本人の死亡原因の第1位はがんで、男性の4人に1人、女性では6人に1人ががんで亡くなっています。世界的に見ても、がん発症数と死亡数は増加が予測され、大きな社会課題の一つとなっています。

そのため、製薬会社ではがん治療薬の開発が積極的に行われています。とくに、近年ではある特定のタイプのがんにフォーカスして治療効果を高めるように設計された「分子標的薬」と呼ばれる新薬の開発が進んでいます。この薬は、がん細胞をピンポイントで攻撃することで高い治療効果を発揮する薬です。
分子標的薬の開発や使用においては、がんの正確な病理診断が鍵となります。がんになったとき、あるいはがんの疑いがあるときに、がんの治療や診断に関わる生体組織に発現するタンパク質の数や位置を正確に把握することができれば、分子標的薬の開発においてはがん治療法の早期発見に、分子標的薬の使用においてはがん治療法の正確な選択につながり、がんは、今よりもっと「治る病気」になります。

そこで、コニカミノルタは東北大学と共同で、蛍光ナノ粒子を用いてがん細胞に発現するタンパク質を正確に検出する新技術「HSTT(High Sensitive Tissue Testing)」を開発しました※。HSTT技術は、がん細胞に発現する特定のタンパク質の数や位置を解析し、早期に高精度な病理診断を可能にします。それにより、患者の正確な層別化を図り、臨床試験の成功率向上、さらにはがんの治癒率向上や医療経済効果にもつながるソリューションを提供します。

※本技術開発は、NEDOのがん超早期診断・治療機器の総合研究開発プロジェクト/病理画像等認識基礎技術の研究開発プロジェクト「1粒子蛍光ナノイメージングによる超高精度がん組織診断技術、診断システムの研究開発」(2010~14年度)の支援を受け、東北大学大学院医学系研究科(腫瘍外科学分野・ナノ医科学講座)大内憲明教授、権田幸祐教授および東北大学病院(病理部)のグループとの共同研究開発結果です。

Technology
独自技術を応用した
蛍光ナノ粒子により
がんの正確な診断を実現

一般的な病理検査では、まず内視鏡や手術により患者の組織の一部(検体)を採取し、それをスライドガラスにのせ、目で見えるように細胞に色付け(免疫組織化学法、以下「免疫染色」)します。免疫染色とは、特定のタンパク質の発現状況から、がんの種類と進行度を診断するための方法です。
従来の免疫染色「DAB法」では、特定のタンパク質を染色し観察することで、がん細胞に特定のタンパク質が存在しているかどうかを確認できました。今回コニカミノルタが開発した新技術HSTTでは、特定のタンパク質の有無だけでなく、数や位置まで正確に解析することが可能になります。

特定したいタンパク質だけを明るく染色する技術(ナノ病理染色法)
ナノ粒子蛍光体形成技術 × 抗原抗体反応制御技術

免疫染色においてはこれまで、発現するタンパク質を高精度でかつ定量的に検出することが難しいという課題がありました。
酵素で染色する方法は、増感させて、染色するので、原理的にタンパク質の量を定量的に反映できません。
蛍光体を用いる方法で解決しようとしても、蛍光体の輝度(明るさ)の低さや褪色に加え、感度が低いことから蛍光画像にばらつきが出てしまい実現できませんでした。

HSTTでは、コニカミノルタが独自に開発した蛍光ナノ粒子(PIDs=Phosphor Integrated Dots)を用いて、がん細胞に発現したタンパク質の数と位置を正確に特定することができます。蛍光ナノ粒子とは、数十nmの特殊な構造の高輝度高耐久物質で、極めて明るく光る特長があります。輝度は一般的な蛍光色素の約1万倍あり、高い耐久性を備えているため、タンパク質をより明るく光らせることができ、少ない発現量でも見落とすことなく解析することが可能です。

また、蛍光ナノ粒子を特定タンパク質(抗原)に確実に付着させ(特異吸着)、それ以外に付着する(非特異吸着)確率を減らすことも重要になります。HSTTでは、患者から採取した組織に2段階の抗体を介して反応させる等の工夫をして特異吸着を促進。一方、蛍光ナノ粒子の表面処理と特殊加工剤(ブロッキング剤)により非特異吸着を減らすことを実現。これにより、特定のタンパク質だけを正確に染色することが可能になります。

画像認識アルゴリズムで
タンパク質の数と位置を解析

ソフトウェアによる
解析技術

がんの治療や診断に関わる生体組織に発現するタンパク質の定量化と正確な位置情報を取得するために、コニカミノルタは蛍光ナノ粒子によって発光した病理組織を蛍光顕微鏡で撮影し、その画像をソフトウェアで解析する技術も開発しました。

撮影された組織画像はデジタル化され、画像アルゴリズムにより「細胞核解析モジュール」と「輝点解析モジュール」で解析します。細胞核解析モジュールでは細胞の数や面積を測定、輝点解析モジュールでは輝点(発光している点)をカウントして蛍光ナノ粒子の数に変換。スコアが高いほど、蛍光ナノ粒子=特定タンパク質の発現量が多いということになります。それぞれの測定値から解析することで、どの細胞のどの位置に、いくつタンパク質が発現しているかを正確に検出することができます。
がん細胞に発現するタンパク質は、がんの種類によって異なるため、この技術によりがんの種類を判別し、より効果の高い治療法を選択できるようになります。

Solution
患者の正確な層別化により
創薬の推進と
個別化医療を実現

HSTT技術を実際の医療に役立てるために、コニカミノルタでは2015年7月より病理標本作製サービスを開始しました。具体的には、製薬会社や医療機関から提供された検体や抗体を預かり、ナノ病理染色で解析したデータを報告書として返却するものです。
これにより、製薬会社における創薬の支援が可能になります。たとえば、がん治療に使用される分子標的薬の開発においては、臨床試験のときに新薬が「効く」被験者と「効かない」被験者を厳密に分けることが重要です。それができないと薬の効果を立証することが困難となるからです。HSTT技術により患者を正確に層別化することで、がん細胞に特定のタンパク質が発現している、つまり分子標的薬を使用できるタイプのがんである被験者を明らかにできるようになり、薬の効果を明確にできます。それにより短期間で臨床試験を成功させ、時間・コストの削減や新薬の迅速な開発に貢献します。

今後は、医療機関での診断に応用し、がん治療にも貢献していく考えです。これまで検出できなかった微量のタンパク質を高精度に検出することができれば、必要とされる治療法を正しく選択し、いち早く取り入れることが可能になります。患者ひとりひとりのがんのタイプにより最も効果的な治療法を選択する「個別化医療(オーダーメイド医療)」が可能になるだけでなく、必要ない治療を減らすことで医療資源の最適配分、医療サービスの効率化にもつながります。

Future
デジタル化による
病理診断の効率化と
分子イメージングへの応用

現在、HSTT技術による取り組みは検体の解析による病理診断支援が主体ですが、今後、さらなる活用法が検討されています。例えば、デジタル化することで遠隔地で病理診断するデジタル・パソロジーを実現し、診断の迅速化やコスト削減が可能になります。将来的には検体を採取せず、体内で組織を見て診断するなど、患者の身体的負担を軽減する診断法の確立も期待できます。
また、HSTT技術を分子イメージング技術に応用する研究も進められており、実現すれば創薬の初期段階での薬物動態(薬が体内でどう運ばれ、作用するかという動き)を見ることが可能になります。
今後も、コニカミノルタは、独自に開発した蛍光ナノイメージング技術を活用し、創薬や診断への支援、がん患者の生存率やQOL(生活の質)の向上、医療費高騰など、グローバルな社会課題の解決に貢献していきます。

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