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小川康博写真展


作者の撮影ノートより

撮影の前に

撮影の前に私は、自分の頭をできるだけ空っぽにしておきたいと考えています。何をどう撮ろうとか、こういう状況だったらどう動こうとか、何も考えないように努めています。私が欲しいと思っているのは、純粋に自発的な衝動なのです。何かを見て、はっとしたときには既にシャッターを押している。これが、私が理想としている撮影の瞬間です。
とは言っても、そう簡単に「無我の境地」に至ることなどできません。カメラ片手に歩いていると、さまざまな雑念が途切れることなく頭の中に湧き上がってきます。「いい写真は撮れただろうか」「今の構図でよかっただろうか」…。そんな雑念と格闘しながら、今日も私はカメラを持って歩きます。不意に訪れるシャッターチャンスをいつも心の中で待ちながら。

最も印象に残ったこと

水没予定のある町で、ひとりの老女と知り合いました。彼女は私を部屋に招き、強制移住を迫られているのだと涙ながらに訴えました。身を寄せる家族もなく、新しい住居を買う資金もない。ただ、明日もわからぬ日々を怯えるように過ごしていました。その翌年、町は静かに水没してゆきました。
移住の対象となった百四十万人のひとりひとりが、おのおのの歴史やドラマを抱えて生きています。老女との出会いによって、私は水没する町に住むという現実をよりリアルに感じることができるようになりました。
すべてを呑み込んでいった長江。深い静寂をたたえたその水面には、この地に去来した人々の歓びや哀しみさえもが封じ込められているに違いない。長江への旅を繰り返しているうちに、私はふと、そんな思いを抱くようになりました。

今後の作品制作について

私はフィルムカメラを愛用しています。ここ数年のデジタル画質の向上に目をみはりながらも、やはり私は今後もフィルムで作品制作を続けたいと考えています。
撮った画像をすぐに確認できる機能がデジタルカメラにはありますが、実は私はこの機能に弱いのです。撮っては確認し、また撮っては確認する。いちどデジタルカメラを使い始めると、撮影が「永遠の確認作業」と化してしまうのではないか。根が細かい性質なので、撮影した画像の確認ばかりに気をとられ、私はきっと撮影の楽しみを失ってしまうことになるでしょう。
そんな訳で、私は今日もいそいそと、カメラにフィルムを詰めて歩き回っています。現像の瞬間まで何が撮れているのかわからない、そんな非効率さが私はたぶん、好きなのです。

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