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東京写真月間2009


トークショー

田口ランディ氏(作家)×佐伯 剛氏(風の旅人編集長)の公開トークを開催

5月30日(土)、18時より当館ギャラリーCにて、作家の田口ランディ氏と雑誌『風の旅人』編集長の佐伯 剛氏による「いまここ、あるいは、ここではないどこか」と題した公開トークが開催されました。今回の写真展で掲げられた“自分の眼差しを変える体験=旅”というテーマをもとに、旅について、そして写真を含めた表現について、約90分間にわたり対談していただきました。

満員となった会場で、拍手に迎えられ対談がスタート。『風の旅人』最新号と連動した今回の写真展の趣旨を佐伯さんがお話され、写真展の感想を田口さんにうかがいました。「旅の写真にはそこに行きたくなる写真が多いけど、ここに展示されているのは、それを私にまったく期待させない写真ですね」と、早くも田口ランディ流の回答が飛び出し、話題は、いわゆる“旅の写真”と展示された写真との違いの考察に。無自覚に作った“枠組み”に人や風景を押し込んでいる旅の写真が多い一方で、他者との“関係性”をじっくりと丁寧に撮っていくという流れも出てきていると、いくつかの例をあげて話してくださいました。

旅における“追体験”のお話になり、田口さんが自身の旅行記『忘れないよ!ヴェトナム』『ひかりのあめふるしま屋久島』にまつわるエピソードを紹介。それらの本をなぞるように旅する読者が少なくないことに触れ、他人の旅の体験を自分が書くことで邪魔しているのでは、と憂慮されていました。「単なる旅の紹介と旅行記とは別。本を読むことがひとつの体験となり、読者は実際の旅体験で、追体験して満足するのではなく、その違いを認識するわけですから」と佐伯さん。旅行記の必然性をあざやかに説いてくださいました。

メディア(特にインターネット)に写真情報があふれて、初めて見る場所が極端に少なくなったと田口さん。おふたりとも、かつて“びっくり”するための体験だった旅が、いまは情報過多によって鈍麻していると言います。また、鈍麻させる方向に社会が向かっているとも指摘。そして、話題は日本の知られざる秘境、大分県・国東半島への旅のお話に。“場”がもたらす強い力と、道中に起こった不思議な体験などを語っていただきました。

あるドキュメンタリー映画を見て湧いた疑問に、友人が答えた「人間は心底びっくりしたときに、考えを変えることができる」という言葉が、強く心に残っているという田口さん。自分もまたお兄さんを亡くした経験が、作家になるきっかけだったと話します。現在は過敏に、びっくりしないようにする社会だから、必要以上にびっくりすることへの自己防衛が働いている、と佐伯さんは指摘します。「びっくりしてしまえば快感なのに、その快感が見つかりにくい時代になっている」とも。

湯河原にご家族と暮らし、執筆活動を続ける田口さんにとって、その安定した日常生活は不可欠なものだそうです。創作や人生において、田口さんのベースとなっているのは“感情”を体験すること。だからこそ「規則正しい生活をして“感情”を安定させていないと、“感情”に飲み込まれてしまって、味わうところまでいけない」と言います。そのお話を受けて佐伯さんは、写真表現にも不安定な自分を相手(被写体)に投影する自己中心的な表現ではなく、安定した状態で被写体が持つ美しさや味わい深さ、その固有性を丹念に引き出そうとする傾向が出てきていると、話してくださいました。

自分を主張するために他者を表現の素材として利用するのではなく、他者の良さを引き出すような表現が、若い人の間に出てきていると話す佐伯さんは、こうした写真の流れを“自己”表現から“他者”表現の段階に入っていると言います。自分と被写体との関係が従来にない新しいところに達していて、表現的にもソフィスティケートされたスタイルになってきていると語る田口さんも、「未来は暗くない!」とこの新たな潮流を絶賛されていました。

ネイティブ・アメリカンを30年にわたって撮り続けた、エドワード・カーティスという写真家を佐伯さんが紹介。若い写真家が約100年前に撮られたカーティスの作品をバイブルにしていると聞き、単に古典としてではなく、そこに新しいものを発見する目ができてきていると感じたそうです。終盤は、佐伯さんが先日お会いした写真家・細谷英公氏のお話に。年齢を超越した雰囲気に圧倒されたという佐伯さんに「感情を開放して生きている人は若いままでいられるんですよ」と言った田口さんがとても印象的でした。

最後は、今回の写真展で紹介された5名の写真家が壇上へ。ひとりずつ自己紹介をしていただき、1時間30分にわたった公開トークは終了。田口ランディ氏と佐伯 剛氏、おふたりの息の合ったトークと名言の数々を聞くことができ、参加されたお客様もみなさん満足していただけたことと思います。ご来場、誠にありがとうございました。


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