content

竹谷 出写真展


作者の撮影ノートより

撮影の前に

十年程前に夏の東北を旅した時に、出会った一軒の茅葺の家が始まりでした。その時はただ屋根に生えた木が面白い、と思っただけだったのですが、数年後の冬、ふと思いたって再び訪ねてみました。記憶が曖昧で探すのに苦労しましたが、屋根に生えていた木は健在で、雪の重みで少し傾きつつも佇むその家の姿にいとおしさを感じてしまいました。寒さのせいでしょうか、地の体温のようなものを感じ、白に覆われているせいか、「静かに在ること」の意味を考えさせられました。

最も印象に残ったこと

岩手県の或る村にて、曲り家(まがりや)と呼ばれる母屋と馬屋が一体となった家を見つけました。遠目には朽ちた印象を持ちましたが、近くにいってみると軒下に丁寧に薪が積んであり、大根葉、とうもろこしが干してあります。しばらく迷いましたが、どうしても内部が見たくて失礼を承知で声を掛けてみました。すると老人が出て来て、何も言わず手招きしてくれました。裸電球ひとつの室内は散らかっていて、長い年月をかけて熟成された空気がまとわりついてくるように感じられます。自在鉤に吊るされている鉄鍋には、雑穀の入った味噌汁のようなものが湯気をたてていました。冬の間はお腹がすくとこれを食べて、一日中囲炉裏端に座っているそうです。聞こえるのは薪が燃える音、鍋から煮える音、時折屋根から落ちる雪の湿った音。炎に照らされたその老人の姿が、とても印象に残っています。
三年後再び訪ねてみると、その家は荒れ、もう人の気配はありませんでした。

作品エピソード

冬の東北では、大根が干されている風景をよく見かけます。遠野を車でうろうろしていた時、道路脇から白い煙のようなものが見えました。炭焼き小屋かと思って近づいてみると、煙ではなく湯気が少し開いた出入り口から流れ出ていました。中に入れていただくと、三十代の女性二人が凍み大根を作っていました。大鍋で大根を煮て、三日間水につけ灰汁を抜き、三ヶ月ほど屋外に干すそうです。煮えた大根をもらいいただくと、甘くておいしい。ちょうどお昼時だったので、弁当のおにぎりもいただきました。それがなんとも大きく何も入っていない、真っ白いおにぎり。そして、予期せぬ闖入者に対して、彼女たちはよく笑いました。写真にはならない、幸せなひと時でした。

作者の製作現場からトップに戻る


アクセス

アクセス
〒160-0022
東京都新宿区新宿3-26-11
新宿高野ビル4F
JR新宿東口、地下鉄丸の内線「新宿駅」A7出口から徒歩1分(フルーツの新宿高野4F)

ページトップへ戻る