content

松浦範子写真展


作者の撮影ノートより

撮影の前に

歴史に名を残すことのない一人ひとりと向き合い、その小さな声に耳を傾けながら、人びとの素顔を見つめてみたい――。そんな思いで、四カ国にまたがるクルド人の土地「クルディスタン」を旅してきました。撮影を始めた1997年頃、クルディスタンから遠く離れた地域では、「そんな所、ちっともきれいじゃないし、行っても何もない」とか、「テロリストがいるから行くな」などとよく言われたものです。また、彼の地に向かうバスに乗り込めば、随所に置かれた軍や警察の検問所で、執拗な取り調べを受けるのが常でした。そうして、ようやく辿り着けば、たくさんのクルド住民たちが「この土地で起きたことを伝えてほしい」「私たちの本当の姿をもっと知ってもらいたい」と、話しかけてくるのでした。

最も印象に残ったこと

トルコのクルド人居住地域を小型バスで移動していた時でした。国の治安維持の名目で爆撃を受けたり焼き払われたりした村の廃墟を車中から撮影していると、同乗者の一人が「こんな目に遭っているのに誰も来てくれない。撮った写真をあなたの国の新聞に載せてくれ」と私に訴えてきました。車の窓を開けて撮影していた私でしたが、そこで車を降ろしてもらい、もっと念を入れて撮り直すことにしました。その間、他の乗客たちは黙って待っていてくれました。そして次の村でバスが停まった時、一人の老人が、無言のまま私の手を固く握って降りていきました。さらにその後バスが停車場に着くたびに、他の乗客たちも同じようにして降りていきました。それは、はむかうことも声をあげることも許されず、何があってもただじっと耐えるしかなかった村人たちがとった、精一杯の行動だったのです。

作品エピソード

旅の疲れから体調を崩し、ようやくベッドから起きあがれるようになった日のことです。おぼつかない足取りでカメラを手に町の外へと出かけると、草原を横切って流れる小川のそばで、威勢よく棒を振り回しながら水を汲みにきた一人の少女に出会いました。そのたくましい様子がおかしくて、続けてシャッターを切っていると、その少女の表情は、だんだんはにかんだような女の子らしいものへと変わっていきました。その時の彼女の愛くるしい姿と、周辺の長閑な光景は、私にとっての、クルディスタンの原風景の一つとして、記憶に深く刻まれています。

作者の製作現場からトップに戻る


アクセス

アクセス
〒160-0022
東京都新宿区新宿3-26-11
新宿高野ビル4F
JR新宿東口、地下鉄丸の内線「新宿駅」A7出口から徒歩1分(フルーツの新宿高野4F)

ページトップへ戻る