京美染色株式会社

京都の染色加工場である京美染色(株)は、早くからインクジェットプリンターの可能性に着目した企業の1社であり、2000年、コニカミノルタIJのインクジェットプリンター「ナッセンジャー」を導入する。現在は、京友禅という伝統と最先端技術であるインクジェットプリンターを組み合わせたファッション雑貨を、同社ホームページによるネット販売や百貨店などの催事で販売する事業が主力となっている。川中企業の自主販売事業は、誰もが挑戦し、挫折を繰り返すことが多い。その中にあって同社のビジネスモデルの成功は川中企業にとって大いに参考になる。大塚晴夫社長にインクジェットプリンター導入から将来的に目指す企業像などについて話を伺った。

「消費者に近いビジネスを目指して」

同社は1925年、大塚社長の父親が友禅染めの加工場として創業した。第二次世界大戦中は軍需工場に転換を余儀なくされ、リベットやキャタビラーなどを生産していたという。戦後は軍需工場時の設備などを使って鍋やかまなどの製造を行うが、再び染工場として再興。それが1948年になる。大塚社長によれば、これが「第2の創業」に当たる。1950年に会社組織となり、現在に至る。
1985年までは留袖、小紋など和装用の捺染をメーンに、京都室町筋を得意先に販売していた。1989年からは洋装用や雑貨などの加工も手掛ける。一時は浴衣などの加工も行い規模を拡大してきた。
しかし、日本の繊維産業そのものが縮小に転じ「需要が落ち込むとともに職人の高齢化、後継者の育成も難しくなる」と大塚社長は危機感を持った。仕事が減ると技術の伝承もままならない。そこで、委託加工だけではなく、京友禅の図案ストックを生かしながら「消費者に近いビジネスを行うことが重要」と判断する。
そのためのツールとして、インクジェット捺染が有効として、ナッセンジャーを2000年に導入するに至る。ナッセンジャーを導入した企業としては最も早い。
大塚社長は「将来を考えると、一歩でも早く参入し、ノウハウを自ら作り上げることが付加価値を作る先行投資だった」ことを明かす。そして、導入に際しては他社製インクジェットプリンターも比較したが「テキスタイルの捺染において、ナッセンジャーの平均点が高く、コニカミノルタIJのメンテナンスやフォローの体制がしっかりしていた」ことが決め手になったが、まだまだ実用段階ではなかったとも。

「技術確立に試行錯誤、それが今では強み」

それは導入後の苦労につながる。当時は前処理、後処理の技術ノウハウが確立されていなかったからだ。「試行錯誤が続いた」と大塚社長は当時を振り返る。コニカミノルタIJと協力しながら、この技術確立には2年を掛け、ようやく事業化にこぎつけた。実はここに同社の強みがある。
インクジェットプリントを行う企業には前処理を外注で行う企業が少なくない。これに対して、同社は自ら前処理を行う。しかも、様々な生機の前処理ができ、インクジェットプリントまでの一貫生産ができる技術ノウハウを確立している。これは強い。
2004年からは生地の委託加工に加えて、シルク100%によるアロハシャツをネットや百貨店の催事で販売する。これが成功した。このアロハシャツは1枚2万4000円と高価格だったが「売れた」と言う。しかし、販路が広がらなかったこともあって、3年で衣料品の自主販売からは撤退することになる。そこで自販事業として、大塚社長が再挑戦したのが「亥之吉」ブランドによるファッション雑貨だった。この「亥之吉」が現在、年率2けた%で売り上げを伸ばすなど好調な推移を見せている。

「亥之吉ブランドのファッション雑貨」

「亥之吉」によるファッション雑貨は、同社が友禅染めで蓄積した和柄をモチーフにした斬新さと生地から染色、縫製まで京都で行う「京都ブランド」が、消費者に受け入れられて好調な売れ行きを見せる。
商品コンセプトは「染め屋だからできること」。帆布トートバッグ、ポシェットがま口、大きなトートバッグ、横型ショルダーバッグ、リバーシブルグラニーバッグ、バックインバッグ、籐バッグ、ショルダーバッグ、手持ちバッグ、帆布フリーポーチ、帆布ブックカバー、帆布&スウェードオーディオケース、ベンリーがま口、ショルダーがま口、ペットボトルケース&ジュエリーケース、立ち鏡、クッションカバー、晴雨兼用傘の18品種。
価格も(税込み)トートバッグで5,880円、ポシェットがま口が3675円とお手ごろ。ネット販売(www.kyobiijt.co.jp)やテレビショッピング、通信販売に加え、百貨店での催事や期間限定での出店でも好評を得ている。ある東京の百貨店では1週間で500点近く販売したこともある。また、ネット販売ではリピーターも多く、購入するため、同社を訪れる人もあるというほどの人気だ。

「創業以来のデザインを活用する」

トートバッグでは、ぼたん柄が売れ筋。あじさい、あさがお、ほおずきなど京友禅のデザインをインクジェット捺染機で表現した商品は一瞬奇抜に思えるが、手に取ると落ち着いた雰囲気。伝統の技を感じさせるが、消費者からは「色、柄がかわいい」と反響を得ている。
同社には創業以来、積み重ねてきた和柄デザインがある。明治30年代の手書き図案などはその一つ。描かれた素晴らしい図案をインクジェットプリンターに結び付けることで「消費者が楽しく使ってもらえる商品を作っていきたい」と大塚社長。
また、今後は「亥之吉」ブランドの知名度を高めるため「京都か東京に直営店も設けたい」とインクジェットプリントによるビジネス拡大に意欲をみせる。もちろん、インクジェットプリンターを活用した京友禅も手掛けている。同社はそのパイオニアでもある。

「インクジェットで京都No.1を目指す」

現在、同社は保有するコニカミノルタIJのインクジェットプリンターは3台。新鋭機の「ナッセンジャーV」は一昨年増設し2台を構える。インクジェットプリンターの魅力について大塚社長は「デザインの自由度、グラデーション」を上げるとともに、スクリーンプリントのような型が不要であり、小ロット対応なども強みに挙げる。同時にエネルギー多消費型の通常捺染とは異なり「環境に優しい点も今後、重要になる」と言う。
もちろん、スクリーンプリントも手掛けているが、大塚社長は「インクジェットプリントでは京都ナンバーワンを目指す。また、規模の拡大ではなく、内容を良くすることに重要。それによって従業員が楽しく、思い切り仕事ができることになる」と将来を見据えながらインクジェットプリント事業の拡大に取り組んでいく。

ページトップへ戻る