かね井染織株式会社

古都、京都。京都には伝統を重視する一方で、新しいものに挑戦する風土がある。西陣織や京友禅など古くからの繊維企業にもその精神は根づいている。今回お伺いした、かね井染織(株)もその1社。2006年にコニカミノルタIJのインクジェットプリンター「ナッセンジャーV」を導入し、インクジェットプリントの世界に参入するが、そこは「研究は家の宝」というポリシーのもと、様々な新技術を開発してきた同社だけに、インクジェットプリンターを使いながらも一味違うモノ作りを行っている。伝統工芸士である岩田吉弘社長とインクジェットプリントを担当する前田尚史さんに、話を伺った。

「研究は家の宝」

同社の創業は1938年。70年を超える歴史がある。友禅士であった岩田勝次郎氏の長男、岩田治郎氏(元・伝統的工芸品産業振興協会会長、岩田吉弘現社長の父)が京友禅加工・販売業を行う岩田商事として設立した。1948年には、かね井染織(株)に改組し、現在に至る。
同社は京友禅の創作加工で高い評価を得ている。1966年に放映されたNHKの朝の連続テレビ小説「おはなはん」の衣装は同社が制作したもので、この衣装にベースに大手商社と共同企画「おはなはん小紋」は一大ブームを巻き起こしたことで有名。また、大河ドラマなどの衣装も手掛けている。
同社は「研究は家の宝」として、研究開発に重点を置き、関連企業も含めて社内には10人の伝統工芸士を擁する。着尺、振袖、訪問着、留袖、四つ身など様々な正絹の着物染色を手掛ける一方で、新しいものにも挑戦し続けている。東レ「シルック」着物など合繊加工の先駆けにもなった。昨今はポリ乳酸繊維の特殊染色も開発し、耐熱性ポリ乳酸繊維とシルクの交織の両面染めにも成功している。

「植物系バインダーも開発」

同社の開発力は加工にとどまらない。2010年には顔料に使用する植物性固着剤(バインダー)も開発した。通常、顔料のバインダーには溶剤系のものが使用されるが、同社は松ヤニなどの植物成分をバインダーにした。環境に優しいバインダーである。
このバインダーは同社が参画する京都力結集エコ住宅「京エコハウス」の「京唐紙」にも使用される。京唐紙は彫刻した版板の上に絵の具をのせ、上から和紙を伏せて手で柄を移す手法。吉田社長が「京友禅だけでなく、京都の伝統産業と連携することで、地域の特性を生かしていきたい」との思いが、京エコハウスでの採用につながった。
「伝統を守りながら革新を求める」という同社の姿勢が表れている。こうした技術開発力が評価され、近畿経済産業局による「KANSAIモノ作り元気企業100選」にも選ばれている。

「インクジェットプリンターを道具に変える」

革新を追求する同社が新しい事業に挑む。それがインクジェットプリンターだ。2005年、専用工場を新設し、2006年にコニカミノルタIJのインクジェットプリンター「ナッセンジャーV」を導入、インクジェットプリントに本格的に参入した。インクジェットプリントは2011、2012年と京都市の「京の環境みらい創生事業」にも採択されている。
インクジェットプリントについては「30年ほど前から注目していた」と岩田社長は明かす。当時はまだインクジェットプリントも創世記。機械もまだまだ発展途上にあるなかで、同社ではインクジェットプリントへの知見を高め、様々なノウハウを積み重ねることに専念する。そして、満を持して2006年にインクジェットプリンターの導入に踏み切る。その際、各社のインクジェットプリンターを試験した。その結果、最終的に「ナッセンジャーV」の導入に至る。決め手はナッセンジャーVによる鮮明なグラデーションだったと言う。インクジェットプリンターはスクリーン捺染のような型が不要であり、小ロット生産が可能な点などの特徴を持つ。こうした利点はもちろんだが、独創的な創作加工を得意とする同社にとっては、思い通りの色柄を表現できるかどうかは大きなポイント。ナッセンジャーVは、岩井社長の眼鏡にかなった。

インクジェットプリントを担当する前田氏も「デザイン面で細かいものを再現できる」と「ナッセンジャーV」を高く評価する。ただし、同社の特徴はそこから。ナッセンジャーVを活用したインクジェットプリントにとどまらず、プリントした生地に金箔、スワロフスキーを乗せるなど様々な付帯加工も施して、独自のテキスタイルを開発している。
岩井社長は「インクジェットプリンターは機械であり、そこで個性を生かすことが重要」と言う。岩田社長によれば、インクジェットプリンターを機械ではなく、地域の文化や人の個性を生かした独自のモノ作りができる“道具”へと進化させること。同社はそれを実践している。

京都にはインクジェットプリンターを導入する企業が多い。その中で同社のナッセンジャーVによる加工は月100反。決して多いわけではないが、インクジェットプリンターを導入する他社と差別化できるモノ作りこそが同社の真骨頂だ。

それは京友禅競技大会でも同社によるインクジェットプリント2点が特殊染(機械捺染、インクジェット)優秀賞を受賞していることからも分かる。同社のデザイン力とナッセンジャーVの再現力、そして付帯加工の総合力が評価を得ている。

こうした独自のモノ作りにはコニカミノルタIJの協力も欠かせない。前田氏も「ハード面の問題はないが、インクの自由度はまだ低い」と指摘し、さらなる改良に期待を寄せる。
インクジェットプリンターの導入に際しては11年度、12年度の京都市環境局から「京の環境みらい創生事業」にも採択されている。

「伝統産業を次につなげるのは技術の心意気」

同社の創業者である岩田治郎氏は戦後、沖縄から戻り、伝統産業の復興を強く願い、京友禅の発展のため人材の育成、技術の革新に取り組んできた。そのDNAを引き継ぐのが岩田社長。岩田社長は11年、京都市から「未来の名匠」にも認定されている。
岩田社長は「繊維業界は厳しい状況だが、伝統産業を次に引き継いでいくことが必要。そのためには技術力こそが重要になる。それによって、伝統産業を進化させていきたい」と意気込む。美術工芸品ではなく、工業製品として伝統産業の技術を進化させることが未来を担う若者がやりがいを感じる産業への発展につながるとも。「その心意気が不可欠」と熱く語る。その一つの道具として、また「様々な表現方法の一つとして不可欠な道具」として、インクジェットプリンターを位置付けている。もちろん、技術だけでなく、「安心・安全」「環境と体に優しい新素材」「エコ」など、次代に向けたモノ作りには「社員一人ひとりに合った働き方の創造から」というのも岩田社長の持論。2012年には京都モデル「ワークライフ・バランス」認証企業にも認定されている。
伝統産業の伝承、新技術の開発、生産機械をモノ作りの道具へ進化させるには「社員の心と技があってこそできるもの」と岩田社長は言い切る。

今回ご紹介した会社情報は、下記のホームページより、より詳しくご覧いただけます。

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