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メディカルネットワーク
No.266 No.1 2005
PETがん検診の光と影

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PETがん検診の光と影

Konica Minolta Medical Network No.266 No.1 2005

西村 恒彦

西村 恒彦
京都府立医科大学
放射線医学教室

私が卒業した当時(1972年)放射線科医の仕事は胸部単純X線写真が読影でき、胃透視をうまくこなすことであった。したがって、画像検診業務は肺結核と胃癌の発見が主目的であった。その後食生活の変化に伴い、肺癌、直腸癌や乳癌が増加するに従い、胸部ヘリカルCT、注腸透視やマンモグラフィなどが検診業務として定着してきた。しかし、いずれの画像検診も標的臓器におけるがんの早期発見を狙ったものである。
ところが、2002年4月に FDG(18F-fluorodeoxyglucose)によるPET検査が保険適応されてから1回の検査で全身のがんのスクリーニングができるという利点に加え、1回の静脈注射のみという手軽さから、そして従来の方法では発見できない早期癌が発見されたという報告や、これにもとづく「PETはがんの早期発見の切り札」というマスコミの過剰報道が、高額な検査にもかかわらず多くの受診者を集めている。また検診業務は自由診療であり、PETビジネスとして他の画像診断法と組み合わせたり、中高年を対象として2泊3日の温泉旅行と組み合わせた受診者勧誘の営業が行われたりもしている。
確かに21世紀は健康日本21計画では予防医学の時代として位置づけられている。テレビを見ていてもみのもんた氏の「おもいっきりテレビ」や、堺正章氏の「あるある大辞典」などの健康志向番組や健康食品、サプリメントの広告であふれている。健康を自分で守る時代において、タイムリーなPETビジネスは全国で60~70 施設にまで拡大し続けている。ゼネコンや商社など今まで医療になじみのなかった新規企業が参入する時代になっている。丁度プロ野球に楽天やソフトバンクが参入しようとするのと同じように…。
しかし、FDG-PET検査ががんの早期発見やQ.O.L向上、ひいては死亡率減少効果をもたらしたというエビデンスは現在のところほとんど存在していない。現在行われている一般のがん検診でさえ十分なエビデンスなしに行われているものも多く、今後「検診業務の見直し」が迫られている。一部のがんに関しては厚労省が研究班を組織し、評価に基づく有効性の判定を行っている。FDG-PET検査は胸部X線やCT など他の検診に比べ検査自体が「バラツキ」の大きい検査であり、何よりもFDG-PET検査を十分に読影できる医師の養成も追いついていない。検診業務の質の保証を各施設に任せるとPET施設の乱立とともに検診価格のコストダウンにつながり、PET検査の質の低下を危ぶむ声も多い。PETがん検診が健全な発展を遂げ、この流れを失速させないためには、受診者登録制度を設けてエビデンスを蓄積すること、ガイドラインを設けてPET検査の標準化や、質の向上をはかることなどが急務である。

20◯◯年の日本医学放射線学会大会2日目夕方のフィルム・リーディング・セッションの会場はいつものように多くの参加者で熱気を帯びていた。しかしその内容は「医療訴訟のフィルム・リーディング—この検診症例はどこを見逃したか?—」であった。参加者の内訳は、医師・技師に加え画像診断センターの経営者、そして法科大学院を出た大量の弁護士達がその半数を占めていた…。こんなふうな夢をみて某先生は布団から飛び起きました!!(私はその頃はもうリタイアして悠々自適の生活を送っていると思いますが…)。
ほんの30年前の「お医者様は神様、医療は神聖なもの」から「患者様は神様、医療はビジネス」に移りつつある時代において、放射線診療に携わる医師、技師もFDG-PET検査以上に今後発展すると思われるwhole body MRIによる全身スクリーニング検診などにおいて「予防放射線医学」の観点から熱意を持ち、質の向上につとめることにより疾病の出現を未然に防ぎ、病脳期間を短くし、国民の健康寿命の延伸を支援することが望まれる。

20◯◯年、がんの早期発見は遺伝子解析によるスクリーニングで見出されたハイリスク受診者のみ高度の画像診断による検診が追加されていた。しかし国民の年間自殺者は急増している。各地の画像診断センターではPETやMRIを用いた「うつ病検診」がその中心になっていた…。

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