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メディカルネットワーク
No.264 No.1-2004
放射線科医のストレスは

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放射線科医のストレスは

Konica Minolta Medical Network No.264 No.1-2004

中島 康雄

中島 康雄
聖マリアンナ医科大学
放射線医学教室

“テレビは明るくして見なさい”子供の頃、よく言われた言葉です。

暗い部屋で明るいブラウン管を見ることによって、眼の調節にかかわる筋肉や種々の調節機能が持続的緊張状態を呈し、視力低下や頭痛などの原因になることはずいぶん昔から知られていたことです。

放射線科医になってからは母の言葉とは反対に“写真を見るときは暗くしろ”と常に指導して来ました。最近、読影室はモニターが整備されシャーカステンにフィルムを掛けて読影するスタイルから、コンピュータを操り種々の機能を駆使して読影していくスタイルに変わっていきました。今、画像診断医が暗いところで画面に集中して画像を観察している姿は、昔私がテレビ漫画を見ていたときと同じです。放射線科医の労働災害として、以前は放射線被曝に対する危険手当が認められていたときもあったと聞きます。これからはオフィス同様のVTF障害を認知すべき時でしょう。

さて、読影室全体を暗くすることが本当に診断業務全体として有効なのでしょうか? 現在の最も進んだ読影室とは、部屋全体は暗くして一人一人の読影ステーションに調光ライトを持つことですが、この環境そのものを持てるところは少ないのが現状でしょう。全体照明を明るくすると確かに画像への集中度合いは低下しますが、その分かもしれませんが長時間労働は楽になり、眼や頭の疲れははるかに軽減されます。モニター診断になってますます画面と周囲との照度の違いが出てきた現在では、部屋全体をもう少し明るくすることを提案します。

目だけでなく、画像診断医は長時間にわたって神経を持続的に集中しなければならない環境にあり、そのような環境そのものがストレスの原因であるとも考えられます。以前、麻酔科医の薬物乱用などの事件が取りざたされた時、麻酔科医は薬物が手に入りやすい環境にいるという面とともに、手術室という特殊な密室で長時間仕事をする環境に問題があるということも議論され、労働条件も加味して麻酔科医の絶対数が不足していることが大きく取り上げられました。画像診断医は読影室という孤立した暗い環境での持続的な労動は自然界で人類が長い間過ごしてきた環境とは明らかに異なり体がストレスと感じるのは当然でしょう。

最近、複数の画像診断を専門とする教室員が前庭神経系の疾患になり、このような環境との因果関係について疑い始めています。長時間同じような仕事が続くと、人は誰でもストレスを感じます。最近の読影室では、ITの進歩で読影効率は高まっていますが、それと引き換えに今まで余分な仕事と思ってきたフィルムを運んだり、カルテ情報を参照しに行ったり、診療放射線技師のところに確認に出かけたり・・・・・・などの仕事も、ほとんど手元で即座に出来てしまいます。これはロボットが仕事するには有効ですが、人にとっては気分転換しにくく、必ずしも快適な環境とは言えません。このような環境を自己努力で解決する方法のひとつは、業務全体の中で読影に集中する時間を適切に配分し、肉体労働やカンファランス、外来業務、コンサルテーションなどを混ぜながら自分の中でバランスをとることでしょう。IT時代こそアナログ的な人との直接対面に力を注ぐ、これはやはり鉄則でしょう。

しかし、そうは言っても圧倒的に増加した画像診断の数は、どうあがいてもストレスです。その解決には、やはり画像診断医の増加を促すしか道はありません。高度に発展してきた現代医療において、人員配分の適切化が必須項目ですが、医学という古典的な価値観が生き残っている領域ではなかなか思うに任せません。

最近、世間では麻酔科医不足報道から小児科医不足が話題の中心になり、国民的コンセンサスになりつつあります。医師は聖職だから夜は寝なくて良いという昔の考えはなくなりつつあり、適切な労働で働いている医師に診療してもらいたいと思う国民が多数派です。小児科医は国民にとても身近な存在で、夜間などの小児救急診療の問題は確かに大きいと思われますが、これだけ身近になった先端画像診断による正確な診断と効率的利用は、国民的理解が得られる領域であると思います。画像診断という業務を国民の目にわかりやすく示して、画像診断の重要性を認知してもらえば、画像診断医の抱えている種々の問題点を正面から議論できる環境になると思います。

ストレスなく働く環境作りには、たゆまぬ工夫と努力が必要です。読影室の環境、読影スタイルを見直し、画像診断の重要性をアピールし、画像診断医養成が国民的コンセンサスになっていくよう努力が必要です。

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