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がつん

Konica Minolta Medical Network No.260 No.1-2002

山田 章吾

山田 章吾
東北大学大学院医学系研究科医科学専攻
病態制御学講座 量子治療学分野 教授

輝かしい 21世紀に突入したと思ったとたんに、9月11日アメリカでテロによる大惨事。ブルース・ウィリス主演のダイハードを観ているような、テロリストによるジェット機乗っ取りと世界の富アメリカを象徴するニューヨークの世界貿易センターへのジェット機突入、そして信じられないその後のビル崩壊。アメリカ、ブッシュ大統領は即座にこれは戦争であると宣言、今回のテロの首謀者であると思われるオサマ・ビンラディン氏をかくまっているアフガニスタン、タリバンに報復宣言し、空爆を開始した。そして今手紙によって運ばれてくる細菌兵器・炭疽菌が、戦争はごく近くで起きていることを教えてくれる。まるでこれは20世紀初めの世界戦争突入と同じではないかと思わせる。ただし20世紀の戦争は国家と国家の戦争であったが、今度は宗教の絡んだテロリスト対国家の世界戦争である。クラウゼヴィッツの名言「戦争は政治の継続である」をマルクスは引用する。マルクスにとって、政治は経済の反映であるから、結局20世紀と同様、世界恐慌が今回の戦争の誘因で、過剰生産恐慌が終焉するまで、この戦争は続く可能性がある。こんなことを書くと山田は昔・・・?などと思われるかもしれないが、決して・・・である。

それにしてもニューヨークのあの大惨事の直前にまさにジェット機が突っ込んだそのビルに上ろうとして、一部始終を目の前で観て、何事もなく帰ってきた強運の日本の放射線科医がいる。それに引き替え私は一昨年冬の新潟高速道路で、スリップして車は360度宙返りして大破、右手首に大怪我をした不運者である。あの放射線科医の強運が私にあったらとも思うのであるが、今こうやって何事もなくこれを書いているのであるから、私も案外強運なのかもしれない。しかし本当に強運を持っていれば事故は起きなかったかもしれない(?)とも思うし・・・。

こういう時代になるとどの分野においても強力なリーダーシップが求められる。生き残りをかけてみんな必死でやっているのにお前は何だ、というわけである。私どもの教室は初代の古賀良彦教授の時から家族的である。医局員は教授のことを「おやじ」と呼んでいたらしいし、教授も医局員との親睦を家族のように大事にして、5時ともなると医局で和気藹々の酒盛りが始まったらしい。しかし時に教授は厳しく、「おやじ」は本当に怖かった、と2代目星野文彦教授はおっしゃった。うちの脳外科の教授もすごい。廊下まで追いかけていって医局員を怒鳴りつけるし、総回診ではみんなの前で医局員を罵倒する。医局員はぴりぴりして、風が吹いても震え上がっている。私にはこれができない。

この年になると誰々先生の息子さんあるいは娘さんは、どこそこの医学部へなどという話がそれとなく聞こえてくる。うちの息子も高3である。サッカーに明け暮れ、中学高校生活を謳歌した。なかなかのフォワードで、エース・ストライカーとして中学時代は県大会優勝、東北大会出場。高校時代は県大会3 位であったが、東北大会出場を果たし、どちらも親の会の会長を務めさせていただき、私は息子のおかげで感激もし、また大変いい思いをさせてもらった。だからというわけでもないが、なかなか息子に文句が言えない。息子は高3になってもどう見ても勉強していない。これで成績がよければ目を細めて、余裕で見ていられるのであるが、家内の目はつり上がったままである。試験前日も友達の家に泊まり歩いている。たまりかねた家内が、あなた!息子に、いい顔ばかりしているのが良い父親ではないのだから、父親らしく一回「がつん」と言ってください、という。私も見かねていたので、友人の家に泊まって帰ってきた息子に、おいちょっとここに来い、と呼んで、言ったものである。「がつん」と。しばらくきょとんとしていた息子が何を思ったのか、「ごめんなさい」と返事をした。

最近の医局で土日に人を見かけることはまずない。医局員の前で一度言ってみたいものである。「バイトをそれだけするなら、土日くらい・・・」と、しかし関連病院も維持しなければならないし、医局員にも生活がある、何より私が行くように頼んだ兼業であるしなどと考えて、結局胸の中で「がつん」といって、終わってしまう。

ちなみにうちの脳外科の教室からは東北地方を中心に多くの教授が出ているし、厳しかった古賀教授時代には間接撮影法、回転横断撮影法、多軌道断層撮影法などの多くの優れた仕事が出ている。医局員の将来のためには、家内のいうようにいい顔ばかりしてないで、と思い、また家族的なうちの医局から厳しさをとったら、ウーンやっぱりぺろぺろとなめられてしまうな、などと考え、二日酔いでないさわやかな朝は、"今日は厳しく"と家を出るのである。

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