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コンピュータ盗難

Konica Minolta Medical Network No.259 No.2-2001

福田 国彦

福田 国彦
東京慈恵会医科大学 放射線医学講座

バルセロナ空港で盗難にあった。イタリア、スペインなどラテン系の国は盗難やスリの危険があるから要注意とは以前から聞いていた。しかし、これまで海外旅行でさしたるトラブルを起こしたことはなかったので、自分はそのような被害には会わないという変な自信が、自ら災難を招いたと反省している。

被害は、コンピュータとデジタルカメラであるが、コンピュータにはP-in Compactとメモリーカードアダプタが装着されており、ご丁寧にも電源コードにはスペイン用のソケットまで着けてあった。なによりも、困ったことはコンピュータに入れてあったドキュメントや画像データの喪失である。実は、本稿で依頼されていた原稿も失った。日本からの機内で書き上げた原稿である。したがって、この記事は2本目の原稿で、当然内容は異なる。

ご同輩の注意を喚起する目的で、ことの経緯を書き留めておきたい。盗難にあったのはバルセロナ空港のJALカウンタにおいてである。バルセロナには、マルチスライスCTのシンポジウムで訪れていた。

シンポジウムも終了し、お疲れ様を言って各自それぞれの航空会社のカウンタに向かった。JALとイベリア航空の共同運航便であったので、順天堂大学のH先生とイベリア航空のカウンタに向かう。ところが、共同運航であるがJALのカウンタが別個にあるからそこで搭乗手続きをするようにとの指示である。イベリア航空はスペインの国営航空である。いけどもいけどもイベリア航空のカウンタが並んでいる。端から端まで往復してようやくイベリア航空の看板の下にJALのマークをつけたカウンタをみつける。その時すでに少し疲れていた。カウンタは列をつくる人もなくむしろ閑散としていたが、団体旅行のコンダクタが一括して搭乗手続きをとっているらしく、我々は待たされた。私は、その時までに多少重さを感じるようになっていたコンピュータを容れた機内持込カバンを両足に挟むようにして地面におき、預けるトロリーカバンを手で持つような形でカウンタが空くのを待った。思い返せば、私たちの後ろには本当にどのような人物だったかと聞かれても答えようのない特徴に乏しい女性が立っていた。細面で栗色をした髪をした年のころ30半ばくらいの女性である。それくらい存在感が希薄で、今思い出しても影のように立っていたとしか言いようがない。

前には誰も居ないのに待たされるなと感じてたところに、ご家族と一緒にいらしていた日本医大のH先生が『いやぁ。わたしたちも乗り換え地から先が JALなので先生たちと同じカウンタでした』とおっしゃって、私たちに合流。『先生は何時の便ですか』などとたわいのない会話を交わしたが、確かに振り返れば両足で挟んでいたはずのカバンを一瞬意識していなかった。でも、ことさら注意が散漫になっていたわけでもない。後ろの人に迷惑になってはいけないと思い、振り向くとわたしたちの後ろに寄り添うように立っていた女性の姿がない。その後、1分もしないうちにカウンタが空き、さて両足の間に置いた機内持込カバンを持ち上げようとすると、ものの見事にカバンは消えていた。最初は、何が起きたのか理解ができなかった。隣にいた順天堂のH先生に、『あれ、ボクのバックどうしましたっけ』などと、のんきなことを尋ねたくらいである。まことに間抜けであるがこれがことの一部始終である。

海外ではいろいろなことが起こるらしい。ある人は、空港から乗る電車が大変混んでいたので躊躇していると、ドア近くで親切そうに手を差し出した人が居たので、持っていた荷物を渡したところバケツリレーをされて、荷物を全て盗まれたという。H先生は、英国留学3年の経験をお持ちで、かつ大変慎重な方であるが、ロンドンのキングスクロスで地下鉄に乗り込むとき、ご自分が先に乗り、奥様が一瞬遅れたスキにハンドバックを盗まれたという。しみじみとレディファーストとは、女性を守るためのものでもあることがよく分かったよとおっしゃっていた。多分、エレベータに乗るときも同じ理由で注意を払わなければならない。

帰国してから親切にも、クレジットカード会社に連絡すれば保険がおりますよと言ってくれた方がある。たしかに、搭乗券をクレジットカードで購入すると自動的に旅行保険が適応されるということを聞いたことがある。でも、今回はクレジットカードで購入していない。無理と分かっていても念のためとカード会社に電話をすると、いきなり尋ねられたのが『当社のカードで搭乗券をおもとめですか?』であった。クレジットカードを使ってものを購入する利点は確かにある。7~8年前にBritish Institute of Radiologyの年次大会に参加したときにResnickの6巻本テキストを、クレジットカードで購入したことがある。ところが、3ヶ月経っても一向に本が届かない。レシートもっていたがその本屋と交渉するのがめんどうだったので、クレジットカード会社に電話を入れると当方で対処致しますとの心強い対応である。なんと、1週間程度で購入した本が送られてきた。先輩のA先生は、アメリカを旅行した際に、気に入った絵画を見つけ、それをクレジットカードで購入した。記念にその絵画の写真も撮っておいたそうであるが、日本に送られてきた絵画は、全く異なるものであった。クレジットカード会社を通じてクレームしたところ、本物が送られてきたそうである。搭乗券もできる限りクレジットカードで購入するのが、賢明かもしれない。

外国ではいろいろと危険な場所があるが、最も盗難に遭いやすい場所の一つが空港のカウンタであることは、ほとんど私の確信となった。犯人は、まず例外なく地元の人間である。したがって、チェックインしてからではなく、だれでも出入り自由な出発ロビーが彼らの活動の範囲となる。中でも、JALのカウンタ(おそらくANAも)は、無防備な日本人に溢れている。外国ではJAL・ANA搭乗カウンタは要注意!旅行もいよいよおしまい、しかも我が国の航空会社カウンタの前とあって、一気に緊張の解ける瞬間である。でも、JAL・ANA搭乗カウンタ前が一番危険。全神経を集中させて、チェックインするまで注意を怠らないことである。

なんと、盗難にあったことをJALカウンタのスタッフに伝えると、『空港警察はここを左に行って次のビルの手前をまた左に曲がってその突き当りです』と流暢な対応である。きっと、何人も同じ目にあっているに違いない。更に驚いたのことは、空港警察で盗難にあった旨伝えると、盗難届けの書類がなんと日本語。人の気持ちを逆なでするように、盗難品のチェック項目の一覧表にはコンピュータとカメラまで書いてある。そんなに多いのならなんとか事前に対応してくれと、恥ずかしながら泣きが入りそう。

帰国してから、シンポジウムの主催者からメールが入った。空港から程近い町で私のカバンが発見されたという。中には、シンポジウムの抄録と滞在していたホテルの案内が入っていたという。返送して欲しいかとの問いに、抄録が欲しかったので、是非返送して欲しいと返答した。1ヶ月前のことである。シンポジウムの抄録だけを容れたカバンがゆっくりと船便で航海中であろうか。未だ、私の元には届いていない。

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