火災の早期検知、最適なのはサーマル?感知器?

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火災リスクにどう備えるべきか

製造業の現場では、火災は突発的に発生するものではなく、多くの場合、温度の上昇や異常な臭い、発煙といった前兆が存在します。しかし、これらの兆候に気づかず初期対応が遅れると、重大な事故につながりかねません。令和5年の総務省消防庁の統計によれば、全国で38,659件の火災が発生しており、なかでも製造業を中心とした工場・作業場での火災件数は高止まりしています。火災による被害は、人的損害や設備損壊だけでなく、事業の長期停止やブランドイメージの毀損にもつながり、企業活動に与える影響は計り知れません。

工場火災の主な原因としては、電気設備のショート、リチウムイオン電池の過熱、可燃物の不適切な保管、溶接作業中の火花の飛散などが挙げられます。これらは、日常的な業務の中に潜んでおり、作業員の注意だけに頼る対策では限界があります。火災は、発生の初期段階で異常な熱や煙を伴うことが多く、この兆候を的確に把握できれば、被害の拡大を防げる可能性があります。しかし、異常に気づかず対応が遅れると、結果的に火災が深刻化し、人的・物的被害が大きくなるリスクを高めることになります。

さらに、近年の工場では自動搬送装置やロボットアームなど、人の目が届きにくい領域が増えているほか、夜間無人化シフトや省人化が進む中で、常時監視の体制そのものが課題となりつつあります。こうした背景から、火災予防を図るには従来の煙感知器や熱感知器だけではなく、「見える化」や「遠隔監視」が可能な新たな技術が必要とされています。

そこで注目されているのが、異常熱を可視化できるサーマルカメラの活用です。特に、AIによる画像解析を組み合わせることで、正常な状態との違いを自動的に判断し、火災の兆候をいち早く捉えることができます。これにより、人による目視や従来のセンサーだけでは捉えきれない初期異常を検知し、的確な初動対応へとつなげることが可能です。

本コラムでは、サーマルカメラと従来型センサーを「検知タイミング」「設置適応力」「誤報リスク」の3つの視点から比較し、それぞれの特徴を整理します。実際の導入や改善の検討にあたって、現場の判断材料として活用していただければ幸いです。

比較①:検知タイミングと反応速度

火災が発生した際、被害の大きさを左右するのは、初動対応の「速さ」です。異常にいち早く気づき、適切な措置を取ることで、人的被害や設備損傷を最小限に抑えることができます。厚生労働省の「令和5年 労働災害発生状況」によれば、製造業における火災・爆発事故は依然として発生しており、その多くは初期段階での異常の見逃しや対応の遅れに起因していると指摘されています。

ここで、火災リスクにどう対応するかを考える際に重要になるのが、検知のタイミングと反応速度です。まず、従来型の火災検知装置である煙感知器や熱感知器の仕組みを確認しましょう。煙感知器は、空気中の粒子を検出し、一定濃度を超えると警報を発するタイプの機器で、光電式やイオン化式などがあります。一方、熱感知器は、一定温度に達する、もしくは急激な温度上昇があった際に作動する仕組みです。

これらのセンサーはいずれも、「火災がある程度進行した状態」にならないと作動しにくいという特性があります。実際、天井の高い倉庫や、換気装置が強く稼働している作業場では、発煙が起きても煙がセンサーに届くまでに時間がかかることがあり、その分だけ初動が遅れます。熱感知器も同様に、物理的な熱が直接届かなければ作動せず、放熱の仕方によっては検知が困難になることもあります。

さらに、粉塵や油煙が多い環境では、センサーに不具合や誤作動が生じやすく、定期的な清掃や交換が欠かせません。誤報が多発すれば、現場での信頼性が下がり、対応が形骸化するリスクも否定できません。

これに対して、サーマルカメラは火災が起こる「前段階」、すなわち異常な発熱の段階で検知するという大きな特長を持ちます。赤外線センサーを用いたサーマルカメラは、物体の表面温度を非接触で常時監視し、あらかじめ設定した閾値を超えるとアラートを出します。MOBOTIXのサーマルカメラでは、例えば80℃を超えた時点で通知するなど、設備ごとに温度基準を細かく設定できる機能を搭載しています。

加えて、閾値を設定することで、常温環境下での通常加熱と、リスクを伴う異常熱上昇とをリアルタイムで識別できるようになっています。これにより、誤報の削減だけでなく、初動対応の信頼性も飛躍的に向上します。

たとえば、燃料庫での微生物による自然発酵、リチウムイオンバッテリーなど二次電池への衝撃による発熱、高温の空気と原料が発火の原因となる排気ダクトなど、「煙や火が出る前」に危険を察知できるのがサーマルカメラの強みです。従来型センサーでは感知しにくいこの段階で警告できることで、重大事故を未然に防ぐことが可能となります。

また、サーマルカメラは映像と温度をセットで記録できるため、「いつ・どこで・どのような異常があったか」を後から振り返ることができます。これにより、原因分析や再発防止策の策定も容易になります。

一方で、サーマルカメラは消防法で義務付けられた設備ではないため、あくまで任意の補完装置という位置づけになります。法定設備としては、煙感知器や熱感知器が必要ですが、それだけでは十分にリスクに対応しきれない現場が存在することも事実です。特に夜間無人化、少人数オペレーションの工場などでは、従来型センサーだけに頼った体制には限界があります。

消防庁が公表している火災統計においても、「電気機器」や「加熱機器」が出火原因の上位を占めており、いずれも異常熱を伴うケースが多く見られます。これらのリスクに備えるうえで、温度を“視覚的に捉える”という発想は、予防の新たな一手として有効です。

総じて、煙や炎が出てから反応する従来型センサーと、火災の兆候段階で温度異常を捉えるサーマルカメラは、役割が根本的に異なる技術です。どちらか一方を選ぶという発想ではなく、それぞれの強みを活かして「前段階」「発生時」の両面をカバーすることこそが、実効性の高い火災対策といえるでしょう。

比較②:設置環境への適応力

火災検知システムの性能は、設置される環境によって大きく左右されます。機器の性能そのものが優れていても、現場の構造や空調条件、作業内容によっては検知の遅れや誤作動が発生し、結果的に火災リスクを見逃してしまうことがあります。特に工場や倉庫のような大型施設では、センサーの「設置適応力」が、導入効果を決定づける重要なポイントになります。

まず従来型センサーの代表である煙感知器について見てみましょう。煙感知器は天井付近に設置されることが一般的ですが、倉庫や作業場のような高天井空間では、煙がセンサーに届くまでに時間がかかるという致命的な課題があります。このタイムラグが、初期発見の遅れを招きやすい要因となり、被害の拡大につながるケースも少なくありません。実際、消防庁の統計でも、倉庫・工場といった作業空間での火災は一定数発生しており、リスクの高さがうかがえます。

また、換気設備が常時稼働している工場や塗装ブースのような気流が強い環境では、煙が風に流され、感知器に達しにくくなります。これは「煙が出ているのに警報が鳴らない」という誤検知を引き起こし、初動対応を遅らせる大きな要因となります。さらに、粉塵や湿気が多い現場では、センサー内部に汚れが蓄積し、感度の低下や誤報が発生しやすくなるという点も無視できません。

熱感知器に関しても、熱源との位置関係や空間の気流によっては正確に温度上昇を捉えられない場合があります。とくに間仕切りの多い現場では、局所的な熱異常が発生しても、センサーに熱が届かず検知が遅れることがあります。

熱電対は局所的な温度をモニタリングすることができますが、広範囲はカバーできません。

こうした従来型センサーの限界を補完する技術として注目されているのが、サーマルカメラです。赤外線を用いたサーマルカメラは、温度そのものを画像として可視化するため、煙や炎に頼らず異常熱を検知することができます。また、設置の柔軟性にも優れており、天井・壁面・設備機器上など、現場のニーズに合わせた配置が可能です。

たとえば、広角タイプのサーマルカメラを高所に設置すれば、1台で複数エリアを同時に監視でき、死角を大幅に削減できます。画面内の特定エリアだけを対象に閾値を設定し、危険な温度上昇があった場合にのみ通知することも可能です。これにより、効率的かつ精度の高い温度監視が実現します。

さらに、サーマルカメラは遠隔監視にも対応しており、ネットワークを通じて管理者が離れた場所からリアルタイムで現場の温度状況を確認できます。これは、夜間や休日など人手が少ない時間帯においても、監視体制を維持できるという点で非常に大きなメリットです。映像は自動で記録され、異常発生時の時系列データとして後からの原因追及や再発防止にも活用できます。

サーマルカメラが特に力を発揮するのは、以下のような設置環境です:

  • 天井が高く、煙が感知器に届きにくい物流倉庫
  • リチウムイオン電池など発火リスクの高い物品を扱う保管室
  • 塗装・乾燥工程など、強い換気が必要な作業ライン
  • 夜間無人稼働しているロボットエリアや設備室
  • コンベアーやモーター周辺など、摩擦熱が発生しやすい箇所

これらの環境では、従来型センサーの限界が露呈しやすく、視覚的な温度検知によってリスクを可視化できるサーマルカメラの優位性が際立ちます。

比較③:誤報リスク

火災検知設備は、導入後に“安心”をもたらすだけでなく、長期間にわたって安定稼働することが求められます。そのためには、定期的な点検や適切なメンテナンスが不可欠であり、「誤報リスク」も、機器選定における重要な判断軸となります。

従来型の煙感知器や熱感知器は、設置後に周囲の環境によって性能が左右されやすいという特性を持ちます。たとえば、工場や倉庫では粉塵・油煙・蒸気が発生することが多く、これらがセンサー表面に付着することで、感度が低下したり、逆に過敏に反応したりすることがあります。とくに食品工場のような油分を含んだ蒸気やミストが多く発生する現場では、感知器が誤作動を起こすケースが少なくありません。

実際、調理時の煙や蒸気の他、雨漏りによる湿気、水蒸気の滞留などが原因で、感知器が火災と誤認し、警報を発する事例が複数の消防本部・消防組合からも報告されています。こうした誤報が繰り返されると、現場では「またか」という認識が広がり、本当に火災が発生した場合に警報が軽視されてしまうといった重大なリスクにつながるおそれもあります。誤報を回避するために警報音を止めたり、感知器の機能を一時的に停止したりする運用も一部で行われており、結果として火災の早期発見を妨げる危険な状況が生まれています。

こうした背景を踏まえると、誤報リスクを最小限に抑える技術として、サーマルカメラの有効性が際立ちます。サーマルカメラは、物理的接触を伴わない“非接触型”の監視手段であり、汚れや経年によるセンサー劣化の影響を受けにくいという特長があります。粉塵や蒸気の中でも、対象物そのものの温度を画像として検出するため、環境要因による誤報が大幅に抑えられます。さらに、閾値(アラート温度)を細かく設定できるだけでなく、AIやエッジ解析機能を活用することで、「急激な温度上昇」「特定部位のみの異常発熱」など、より精密な条件でアラートを出すことが可能です。

たとえば、以下のような設定が可能です。

また、サーマルカメラの大きなメリットとして、「映像ログによる記録」が挙げられます。たとえば、「異常がいつから発生していたのか」「温度の推移はどうだったか」といったデータを時系列で残せるため、設備点検や保守計画の最適化にも役立ちます。仮に火災に至らなかった場合でも、兆候段階での履歴を確認することで、次の予防策に活かすPDCAサイクルを現場内で回せるというのは、従来型センサーにはない強みです。

さらに、ネットワーク対応型のサーマルカメラであれば、中央監視室や本社部門など、離れた拠点からのモニタリングも可能になります。これにより、現場に常駐しない体制でも異常兆候の検知と初動が可能になり、人的リソースの限られた環境でも安全性を高く保つことができるようになります。

このように、誤報リスクの低減という観点からも、サーマルカメラは現場の負荷を軽減し、信頼性の高い火災監視体制を実現するための有力な選択肢となっています。

まとめ:多層的な監視体制のご提案

ここまでの比較を通じて、サーマルカメラと従来型センサーにはそれぞれの得意領域があることが見えてきました。火災検知の方法として、従来から使われてきた煙感知器や熱感知器と、近年注目されているサーマルカメラ。両者にはそれぞれ異なる強みがあり、現場の環境や用途によって効果の出方は大きく異なります。

感知速度という点では、煙や熱の到達を待つ従来型センサーよりも、温度異常を視覚的に捉えるサーマルカメラの方が、初期兆候の把握に優れているケースが多く見られます。特に、リチウムイオン電池やモーターなど、発熱傾向のある機器が多い現場では、火災発生前の“予兆”を捉えるという意味で、サーマルカメラが有効です。

一方で、建物全体にすでに配備されている自動火災報知設備は、設置や保守の体制が整っており、法令上も義務化されている場合があります。これを全面的にサーマルカメラに置き換えることは現実的ではなく、またその必要もありません。

重要なのは、「どちらを使うか」ではなく、「どのように組み合わせて使うか」という視点です。たとえば、全体監視は従来型の感知器で行いつつ、発火リスクの高いエリアや、夜間無人になる設備周辺にはサーマルカメラを重点的に配備する。あるいは、従来センサーで警報が出た際に、サーマルカメラの映像で即時に温度状況を確認する体制を組む。こうした多層的な監視体制によって、誤報の見極めや初動判断の迅速化が図れるようになります。

さらに、サーマルカメラは監視だけでなく、温度の推移を記録・可視化することで、火災予防のPDCAサイクルを支援する役割も担います。単なる感知機器にとどまらず、「安全管理の見える化」を進めるうえで、現場の管理者にとって有力なツールとなり得ます。

法令順守や設置コスト、メンテナンスのしやすさなど、選定における判断軸は多岐にわたりますが、火災予防という共通の目的に対して、従来型センサーとサーマルカメラの“併用”は、現場の安全性を一段引き上げる現実的なアプローチです。

これから火災対策を検討する現場担当者の方には、「どちらが正しいか」ではなく、「どう使い分ければ最大限の効果が得られるか」を軸に、現場の環境に即した導入プランを検討されることをおすすめします。

コニカミノルタの火災予防ソリューション資料

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本資料では以下の内容をご紹介しています。

  • 国内の火災発生状況と工場・作業場での火災リスク
  • サーマルカメラによる「面」での温度監視システム
  • コンベアーや産廃処理施設などでの導入事例