コニカミノルタの製品である、レンズの生産工程では、ガラス研磨材として酸化セリウムを使用し、その表面の精密加工を行っています。 研磨工程では、酸化セリウム研磨材を水などに分散させた状態(スラリー)で循環使用していますが、研磨によって出てきたガラス成分がスラリー中に多く混ざってくると研磨効率が低下するため、ガラス濃度が一定量を超えたスラリーは廃棄して新しいものに交換する必要がありました。
コニカミノルタでは生産拠点のグリーンファクトリー化を目指し、「資源の有効活用と資源循環」についても積極的に取り組んでいます。
使用済みスラリーを再生利用することができれば、排出物になっていた使用済みスラリーが削減され、希少金属(レアアース)であるセリウムを有効活用することができます。
しかし、酸化セリウムでの研磨は「化学的機械的研磨(CMP: Chemical Mechanical Polishing)」と言われるように、研磨材がガラスの表面を機械的に削っているだけでなく、酸化セリウムとガラスの化学的作用も付加することによって表面の微細な凹凸をなめらかにしているため、使用済みスラリー中では研磨材とガラス成分が凝集してしまい、ガラス成分を取り除くことは困難でした。そのため、一般的な再生技術では再生率が極端に低い、あるいはコストがかかりすぎる、さらには再生のために利用する物質自体が環境問題になるなど、既存の方法では課題を解決できませんでした。
こうした課題を背景として、コニカミノルタはフィルム開発とトナー開発で長年培ってきた高度な材料技術をベースに、酸化セリウム研磨材の高純度なリサイクル技術開発に成功しました。従来の一般的な方法では困難とされていた、酸化セリウムを使用済みのスラリーから100%再生でき、しかも元研磨材の品質と同等まで再生できる技術です。
さらに、このリサイクル技術では大型設備を必要としないため、短時間、低コストでリサイクル設備の設置が可能という利点もあります。そのため、リサイクルのために使用済みスラリーを別の場所に運ぶ必要がなく、生産拠点内で効率的に酸化セリウム研磨材を再生することができます。
現在、この酸化セリウム研磨材リサイクル技術は、国内外の光学デバイスの生産拠点に導入されており、これによって工程内の排出を大幅に削減し、レアアースであるセリウムの使用量も約10分の1に削減※されています。
※酸化セリウムは、使用済みのスラリーに含まれている以外に、研磨後のレンズにも付着しています。レンズを洗浄した排水も回収リサイクルの対象としており、研磨工程全体でのリサイクル率は9割を超えます。
研磨材リサイクルをするためには、スラリー中の研磨材粒子がガラス成分とどのような状態になっているのかミクロン単位での解析が必要です。これら粒子の状態解析は、長年培われてきたコニカミノルタ独自のコア技術のひとつです。
研磨前後における酸化セリウム研磨材の状態の違いについて、電子顕微鏡を用いて粒子の状態を細かく分析し、次のような結果を得ることができました。
- スラリー中の酸化セリウム研磨材粒子は凝集粒から形成されている
- 使用済みスラリーでは、研磨材粒子にガラス成分が付着して研磨効率を低下させている
この結果から、研磨材リサイクルではガラス成分を化学的に除去する方法が最適であることが分かります。 また、再生研磨材の評価においても、粒度分布およびX線回折分析を用い、新品と変化がないことを確認しています。
粒子の状態解析結果をもとに、使用済み研磨材スラリーに薬剤を加え、酸化セリウムのみを選択的に凝集沈殿させて分離、ガラス成分を含む上澄み液を除去した上で再分散させることで、研磨材としての再利用を実現させました。
ここでポイントとなるのは、酸化セリウム研磨材を自在に凝集・分散させる技術です。ガラス成分を除去する際には酸化セリウムのロスを少なくするため、大きめの粒子径となるように凝集させます。その後、研磨材として再利用する際には研磨に最適な粒子径になるように、一度凝集させたものを適度に分散させることが必要です。
コニカミノルタには、重合法トナーで培った凝集技術、写真フィルムのハロゲン化銀で培った分散技術があり、これらのコア技術が高度にコントロールされた粒子の凝集・分散を可能にしています。