高精度インクジェットヘッド~インクが必要な場所に必要なだけ~

開発の背景

プリンテッドエレクトロニクスとは

プリンテッドエレクトロニクス(Printed Electronics)とは、電子回路、センサー、素子などの電子材料を印刷技術によって製造することです。電子デバイスの回路基板の配線を印刷生産するため、通常の半導体製造プロセスで用いられる露光やエッチングなどを必要とせず、省エネと化学物質の使用量減少が期待できるので、環境負荷が少ない製造プロセスとしても注目されています。

日本では、特にインクジェットプリンティング技術を使った開発が進んでおり、LCD(液晶)用のカラーフィルター形成や、ディスプレイ、センサー、電池などの大面積デバイスに、その活用が始まっています。

重要なのは正確な着弾精度

インクジェット印刷では、インクジェットヘッドから微小なインク液滴を噴射して、設計された配線パターンの通りに基材上の必要な場所に、必要な量の液滴を着弾させ、パターンを描画します。このときに重要なのは、正確な着弾精度です。

有機ELディスプレイのパターニング、有機EL照明の薄膜層のコーティング、スマートフォン用の高精度が要求される高付加価値ディスプレイなどの製造にインクジェット印刷が活用されるためには、超微小液滴を高精度に安定して吐出できるインクジェットヘッドが必要です。しかも、量産工程に対応できる高速吐出性能も併せて望まれていました。

課題

  • ・超微小なインク液滴を、正確な量で、曲がらずに、高速に吐出できるインクジェット  ヘッドを開発する。

成果

  • 1. 安定な吐出が難しい低粘度インクにおいても、1滴の量をバラツキなく1pl(ピコリットル:1リットルの1兆分の1)で吐出できる。
  • 2. 128個の全ノズルにおける、射出角度バラツキ1度未満、射出速度バラツキ3%程度。
  • 3. 上記の1と2を、液滴速度6m/秒という高速吐出で行うことができる。

コニカミノルタの技術

粘度の低いインクでも安定吐出

1pl(ピコリットル:1リットルの1兆分の1)とは、目薬1滴(約50µl)の5000万分の1程度の超微小な量で、1plのインク液滴の直径は約12µmです。インクジェットでは、この超微小なインク液滴が、1ノズルあたり1秒間に数万個も飛び出します。
インク液滴は、微小になるほどわずかな変動が液滴形成過程のノイズとなり高精度に吐出する事が難しくなり、さらにインクの粘度が低いと安定な吐出が難しくなります。

コニカミノルタが開発したベンドモード型インクジェットヘッドは、低粘度インク(0.95mPa.s、33.8mN/m)においても、6m/秒の速さで1plのインクを安定に吐出する事ができます。右図は、ヘッドから吐出されるインクをストロボ撮影した連続写真ですが、1plの液滴(直径約12µm)が安定に吐出されているのが観察できます。

さらに、128個ある全てのノズルから一斉に射出した場合にも、曲がることなく高精度に着弾できます。溶剤アナログインク(3mPa.s、28.6mN/m)を液滴速度6m/秒の速さで吐出した時の128ノズルの角度のバラツキは1度未満であり、これは10m離れた10cm程度の的に当たるのと同じくらいの精度といえます。また、このときの全128ノズルから吐出されるインクの速度のバラツキも3%程度です。

技術ポイント

ポイント1:流路設計技術

ベンドモード型インクジェットヘッドでは、下図のように、板状の圧電素子(振動板)が変形してインクを押し出します。

圧電素子は電圧をかけると、Pull-Push駆動してインクを吐出しますが、超微小な液滴を飛翔させるためには、小さい変位量で早く動かす必要があります。そこで、コニカミノルタは、ベンドモードを基本に振動板形状を円形にして、ヘッドの固有振動周期を短くし、かつ駆動効率的に有利にしました。

さらに、PSPICE等価回路解析、ANSYS構造解析を使って、1plの流路設計の最適化を行いました。例えば、液滴射出が不安定だと、1滴になるはずのインクが分裂してサテライト液滴を形成してしまい、着弾精度が低下してしまいます。これを解消するために、流体解析による液滴射出プロセスの検討を行ってノズル形状を最適設計し、液滴射出の安定化を図りました。

ポイント2:MEMSヘッド加工技術

圧力室の顕微許写真
インクジェットヘッドは、微細加工技術のかたまりといえます。コニカミノルタのインクジェットヘッドの厚みは約500µm、ノズル穴の直径は約10µmで毛細血管ほどの細かさです。

インクジェットヘッドの製造には、MEMS(メムス)、別名「マイクロマシン」とよばれる技術が活かされています。MEMS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械システム)とは、シリコンやガラスなどの基板の上に微小な機械システムを形成する技術のことで、ミクロン単位の高度な微細加工技術が求められます。コニカミノルタは、このMEMS製造技術を使って、ヘッド射出特性に影響するノズルやインク流路を高精細高精度に加工しました。
さらに、独自のピエゾ加工技術とMEMS製造技術を組み合わせる事で、小型で高性能なアクチュエーターを実現し、ヘッドに搭載しています。

MEMS製造技術で加工したプレートを、独自の自動精密組立技術で異物の混入なく、高精度に接合する事でMEMSヘッドチップが完成します。
これら確かな微細加工技術があってこそ、128個ものノズルから射出したインクが曲がることなく、高精度な着弾を可能にするのです。

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