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No.271 No.2-2007
放射線科医として駆け出しの頃

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「放射線科医として駆け出しの頃 」

Konica Minolta Medical Network No.271 No.2-2007

山口大学大学院医学系研究科  放射線医学  教授 松永尚文

教授 松永尚文
山口大学大学院医学系研究科
放射線医学

放射線科に入局したのは昭和52 年6 月1日だった。その当時、単純X線写真の読影、消化管造影、経静脈性尿路造影、胆嚢・胆管造影、核医学検査、血管造影、放射線治療が主な仕事であった。1 患者1 番号制度でフィルムが管理されていたため、前回や他検査のフィルムとの比較読影ができ、大袋の中の所見台帳には検査ごとに配色の異なる診断レポートが段違いに貼られ、常に全体像を見渡すことができた。また附属病院の患者さんの身体の内部で起こっている出来事がリアルタイムに把握でき、放射線科は、透かして見られる領域だと思った。

消化管造影や注腸造影では、先輩の先生方は、あたかもピアノを弾くような軽快さで操作され、それは見事な手さばきであった。透視中に早期胃癌のひだ集中を見つけ、バリウムを絶妙に流しながら、きれいな2重造影をされていた。注腸造影では、気がついたら終わっており、できあがったフィルムではすべての領域の2 重造影ができていた。先輩の先生が読影された胃集団検診フィルムを見ると、わずかな病変でも的確に診断されていた。

昭和51 年の暮れにイギリスから導入された頭部CT(EMI1010)が稼働していたが、1 スライス撮影するのに3 分以上かかっていた。脳出血、脳梗塞、くも膜下出血がポラロイドフィルムに映し出され、これらが鑑別できる画期的な装置にデジタル時代の到来を肌で感じ始めていた。その後、昭和54 年全身CT が導入された。「CT とは」から勉強会が始まった。CT 室では、イオン性造影剤で嘔吐する頻度が高かったため、のう盆を持ち、操作室からいつでも駆けつけられるような臨戦態勢だった。CT 予約は数か月待ちの状態であった。現在は、helical CT、MDCT の検出器も多列化が進み、dual source CT まで登場している。

昭和53 年頃導入された超音波検査では当初はポラロイドに記録されていたが、すぐ変色した。その後、総合的に他の画像と一緒にシャーカステンで見れるようにフィルムに焼くようになった。リアルタイムに身体の内部が見渡すことができ、わくわくしたものだった。

血管造影では、患者さんは極度の緊張状態の中で、ごつい撮影装置のある無味乾燥とした血管造影室に1 人寝かせられ、動脈にカテーテルを入れられ、造影剤で体が熱くなり、撮影時のけたたましい大きな連続音が鳴り響き、そのうちにイオン性造影剤による副作用で嘔吐したりで、大変だったと思われた。患者さんには「一瞬身体が熱くなり、また大きな音がしますが、頑張りましょうね」と励ますことしかできなかったが、さぞ生きた心地がしなかったであろうと思われる。

心カテの場合は、秒6 コマのAOT での連続撮影では更にけたたましい大きな音がした。心カテ・カンファレンスでは、いかに早くフィルムをシャーカステンにかけるか、そして格納するか競った。おかげでシャーカステンにかけるのだけは上達した。その後シネ撮影に変わった。昭和57年にDSA が付加され、現在の撮影はDSA でなされるようになり、血管造影の代名詞にもなっている。シネフィルムのプロジェクターでは、自由自在に進めたり戻したりして血行動態を動画で見ることができ、わくわくしたものだった。シネ撮影はCD そしてDVD に記録されるようになり、現在はサーバーに蓄積され、オンライン化されている。

血管カテーテルは、ピッグテールカテーテル以外は手作りだった。Becton-Dickinson(BD)の長いループのもの(ブルー、ピンク)を適当に切断し、先端はガイドワイヤを入れて熱風にさらし引き伸ばしながら細くして段差のないところで切断し、カテーテルの先端にスタイレットを入れ、思い通りの形状をつけ熱湯と冷水に交互につけた。そしてカテーテルの後尾端を火にあぶり、末広がりにして、滅菌に出してもらっていた。脳血管用、心カテ用、腹部血管用など様々なカテーテルの形状を作成した。その後イントロデューサーが登場し、先細りにする必要はなくなり、またカテーテル交換も容易になった。現在はメーカー品で、多種多様なマイクロカテーテルを使える状況で、恵まれているなと感じている。

昭和53 年12 月、大学で始まった肝細胞癌に対する経動脈塞栓術を始め、interventional radiology の進歩に歩調を合わせ、動脈出血、動静脈奇形、動脈瘤に対する経カテーテル動脈塞栓術、経皮経肝的門脈造影および静脈瘤塞栓術、末梢血管や腎動脈のバルーン拡張術、経皮経肝的胆管造影・ドレナージ術・ステント留置術、経皮的腎瘻術、血管内異物除去術など経験した。現在のように、ラジフォーカスガイドワイヤーやしなやかなマイクロカテーテルなど改良された器具があれば、どんなにかやりやすかったであろうと感じている。

単純X 線写真もCR に、血管造影もDSAに置き換わり、CT・MRI も2次元から3 次元画像になり、形態画像から機能画像も得られるようになった。PACS や電子カルテも整備されてきており、アナログの時代からデジタルの時代、オンライン化へ様変わりしている。モニター診断に慣れてしまうと、もう後戻りできなくなっている。

以上、思い出すままに一端を綴っただけであるが、読み流していただければ幸いである。

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