総人口の減少が始まり、40年後には労働力人口が4割減するとされる日本ですが、直近だけ見ると女性と高齢者の雇用拡大により、労働力人口が増加しています。
出典:みずほ総合研究所日本の総人口は、2008年の1億2,808万人をピークに減少に転じており、労働力となりうる生産年齢人口(15歳~64歳)も減少しています。
しかし、生産年齢人口が減少する一方で2018年の就業者数の平均は6,664万人で過去最高を更新(※1)しました。総務省統計局の労働力調査(※2)によれば、15歳以上で働く意志と能力がある者、具体的には就業者・完全失業者・求職者の総数である「労働力人口」は6,830万人とこちらも過去最高となっています。
総人口も生産年齢人口も減少しているのに、就業者数および労働力人口は増加しているのはなぜでしょうか。
就業者数と労働力人口が過去最高になった要因は、女性とシニアの雇用が拡大したためです。総務省の労働力調査によると、男性の就業者数は2008年~2018年にかけて30万人減少したのに対し、女性の就業者数は282万人増加しました。
出典:総務省の労働力調査また、65歳以上の就業者数は、男性では309万人、女性では207万人増加しています。労働力となりうる生産年齢人口(15歳~64歳)が減る中、これまで働いていなかったシニアと女性が労働市場に参入したことで、労働力人口が拡大していることがわかります。
女性とシニアの雇用が拡大したのは、働き方改革を背景に、女性とシニアの雇用を活発化する企業が増えているためです。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査によると、「シニア・女性の活用状況」について「活用しており積極化している」とした企業は41.4%にのぼりました。
また、「人手が大いに不足している」と答える企業ほど、女性とシニアの雇用拡大に積極的であることが調査より判明しました。 女性やシニアの社会進出が日本の人手不足問題の重要な解決策につながっていることがわかります。
厚生労働省の調査によると、離職した女性の退職理由で一番多いのは、依然として「出産・育児のため」です。一方、育児休業の活用により出産後も就業を継続する女性が増えています。
具体的には、国立社会保障・人口問題研究所の出生動向調査によると、第一子の誕生年が「1985 ~89年」の女性のうち就業を継続したのは約24%だけだったのに対し、「2010~14年」の女性が就業を継続したのは約38%と、14%も増加しました。これに伴い、出産を機に退職する女性は約37%から約34%と3%減少しています。
現在無職の子育て中の女性の多くは、就業を希望していることも同調査から明らかになっています。15歳未満の子供がいる無職の女性で「就職を希望する」と回答した人が約86%と大多数を占めました。なかでも「すぐにでも働きたい」と回答した人は20%弱にのぼっています。
出典:国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査」仕事をしたい最大の理由については「経済的理由」が約52%を占め、希望する従業上の地位については「パート・派遣」が約87%を占めました。子育て中の女性の多くは、経済的な理由から就業を希望しているものの、子育てと仕事の両立を考えると、正社員での再就職はまだまだハードルが高い状況であることが推測されます。
それでは、実際に働く女性を増やすにはどうすればよいでしょうか。いまだに女性の退職理由の1位である「出産・育児」。しかし、出産後の女性の就業意欲は高いため、いかに「出産・育児」において離職を防ぐ仕組みをつくれるかがキーポイントです。
仕組みづくりには、企業側が出産育児休業や復帰後の支援制度を用意することが第一歩です。「育児介護休業法」では、育児休業、子の看護休暇、所定外・時間外労働の制限、深夜業の制限、育児のための所定労働時間短縮の措置、育児休業等によるハラスメントの防止などを定めています。
「育児介護休業法」は、大企業中小企業問わず適用されるので、まずは、この法律に沿った、もしくは職場環境によってはそれ以上の制度の整備を進めましょう。
女性が働きやすい職場づくりのために企業ができることは具体的には何があるでしょうか。三菱UFJリサーチ&コンサルティングのアンケートで女性活用を進めている企業がおこなった施策は、1位が「勤務時間の柔軟化」、2位が「職場環境・人間関係の配慮」、3位が「時間外労働の削減・休暇取得の徹底」でした。
子育て中の女性の多くは、子どもの保育園や学童のお迎えがあるため、基本的に残業が難しい状況にあります。そのため、時間外労働の削減や勤務時間の柔軟化は仕事と育児を両立するための支援として必須になるでしょう。
また、子どもの体調次第で、仕事を早退して保育園などのお迎えや急遽休暇が必要になります。そのため、アンケートに挙げられた、「勤務時間の柔軟化」「職場環境・人間関係の配慮」「時間外労働の削減・休暇取得の徹底」の3つの環境整備は、子育て中の女性にとって非常に助かる制度といえます。
勤務時間の柔軟化には、時短勤務制度、フレックスタイム制度、裁量制度があります。時短勤務制度については、「育児介護休業法」では「3歳に満たない子を養育する労働者の1日の所定労働時間を、原則として6時間とする措置を含むもの」と定めていますが、さらに個々人の事情により、始業・就業時間や勤務時間の選択を可能にする方法があります。
また、時間ではなく場所の柔軟化という意味では、在宅勤務も子育て中の女性が助かる制度の一例としてあげられます。継続的に働き方改革に取り組んでいるコニカミノルタジャパン株式会社では2017年、「いつでも、どこでも、だれでも働ける環境づくり」をモットーに全社でテレワークの運用を開始しました。
制度を整えるのと同時に大切なことは、制度の周知と職場への理解促進です。制度があっても周囲の理解がなく利用を妨げていては元も子もありません。職場における制度の周知と理解促進で、特に重要な対象が管理職です。実際に制度をつかうときに社員が相談や報告をする先は管理職であり、職場の風土を作っているのも管理職であることが多いためです。
「中小企業における両立支援推進のためのアイディア集」では、株式会社ジャパン通信社の取り組みを紹介しています。同社では、管理職に対し、育児に関する短時間勤務制度の仕組みや業務マネジメントの方法などを研修で指導するほか、日頃から管理職に対して、残業に頼った業務遂行をしないこと、管理職が各社員の業務量をマネジメントすることを伝え、両立支援をすすめています。
働き方改革推進の一環で年5日の有給休暇取得が義務化されましたが、残業削減や有給休暇取得を徹底している職場は、だれでも働きやすい環境です。だれでも休暇がとりやすければ、子育て中の女性は気負うことなく休暇取得できます。
時間外労働を削減するには、ノー残業デーを設定する、残業を事前申請制にするなどの方法があります。休暇取得を促すには、有給休暇取得奨励日を決める、管理職が自ら率先して休暇取得を行うなどの方法があります。
女性が働きやすい職場づくりには、母親が働きやすいかどうかの視点が大切です。出産前後や育児中の女性の離職率が高いのであれば、その職場は母親が働きやすい職場ではない可能性があります。
なお、今回女性が働きやすい職場についてご紹介しましたが、実は、女性が働きやすい環境づくりをすすめることは、性別問わずだれでも働きやすい環境を作り出すことにつながります。
働き方改革が叫ばれる現代では、働きやすい環境が整っているかどうかは、学生が就職活動をする上で重要視している点であることも近年注目されています。女性、そしてだれでも働きやすい職場づくりを行い、離職率低下、採用力向上を目指しましょう。
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文責:大内絵梨子(中小企業診断士)
民間食品企業で人事、働き方改革関連業務に従事。中小企業診断士取得後、ヘルスケア事業の企業を中心に経営支援を展開。
二児の母として育児と仕事と経営支援の三足のわらじを履き日々奮闘する中で得た知見を活かし、経営コンサルティングや研修講師、執筆活動を行なっている。
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